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聞けなかった事

暁を迎えに行くと 「じゃ、また明日な」 「うん…また明日」 ちょっと2人共、名残惜しそうで… さっきまでの自分を思い出す 電車に乗っても 暁は、何かを考えてる様な きっと… 間宮君との時間、思い返してるんだろな 家に帰り お風呂に入る 暁が、お風呂に入っても ドキドキしてる事、少なくなったな 暁がお風呂に入ってる間に 暁の大好物、ロイヤルミルクティーを作って 冷蔵庫で冷やしておく あれから、沢山色んな物食べたり飲んだりしてるのに ロイヤルミルクティーを飲む暁には いつも♪︎が見える 「ロイヤルミルクティー♪︎」 「ふっ…うん。今日は冷やしといたよ」 「ありがとう」 嬉しそう 「悠兄…凌久さん喜んでた?」 「うん。凄く喜んでたよ。ありがとう」 「こんなんじゃ、全然返せないけど…もっと俺が安心出来る様になれたら、もっと2人で居られるのに…」 「充分だよ。暁はいつも精一杯をくれてるよ。もっとは、またもう少ししてからね」 「……俺は、一生かかっても悠兄に恩を返せないと思う…」 「もう沢山貰ってるよ」 体と一緒に 少しずつ成長していく暁 嬉しい様な寂しい様な 「暁も楽しかった?」 「うん…」 「暁…何かあった?」 「楽しくて…嬉しくて…幸せで……でも、一瞬…凄くドキッとして…しばらく心臓ドキドキしてた」 「ドキッと?」 「……優琉の胸の中で寝てて…俺…寝惚けて、悠兄って言ったみたいで…」 「ふっ…そうなんだ」 今まで、胸の中で安心して寝るって 俺の胸の中だったもんね 可愛い 「優琉が…兄ちゃんには、甘えれるんだって、頭撫でてくれて…そこで目覚めて…優琉だって気付いて…凄くびっくりした…」 「そっか」 「悠兄ってしか…言ってなかったみたいだけど……気持ちいいとか…言ってたらどうしようって…思った」 そこまで聞いて ようやく分かった 暁が、何を言いたいのか 「そっか…暁……そっか…それは、びっくりしたね」 「うん……優琉とセックスしてる時…とか……間違えて名前…呼んだり…とか……」 「しないよ」 「…え?」 「絶対間違えたりしないよ。俺もね…暁と同じ事…ほんとに真剣に悩んだ事ある…けどね、凌久言ってた。どんなに気持ち良くなってても、間違えた事なんて、1度もないよって」 暁なら、分かるよね どんなに気持ち良くなってても…の意味 「ほんと?」 「ほんと。いくら気持ち良くなっても…気持ち良くしてくれてる人の事…間違えたりしないよ。気持ち良くなってるのは…その人の事が好きだからで……行為は同じだけど…全然意味は違うから」 「…うん」 「きっと俺達…ただの仲のいい兄弟になってくよ。そんな心配なんて、しなくていい兄弟に…」 「うん」 そうして… 離れてっちゃうんだろな 突然出来た弟で 来た時は、たいして関心すらなかったのに こんなに… 大切な存在になっちゃったら やっぱり… 離れるのは少し寂しいな 「暁…暁にとって、今1番大切な存在は?」 「1番……」 「ふっ…俺が居るからって、俺じゃなくていいんだよ?」 「うん……でも、決められない。悠兄は…絶対に1番で…違うところで…優琉は1番だから……1番は1人じゃなきゃダメ?」 1人じゃなきゃ… 「暁の中の星…何個増えたって、別にいいだろ?沢山あった方が明るいぞ」 あ…そっか 「1人じゃなくていいよ。暁の1番…もっと増えるといいね?」 「あ…うん!」 そうだね凌久 1番だって多い方が 皆が嬉しいね 「悠兄…」 「うん?」 「俺にとっては、あまりにも日常的に目にしたり…自分でもしてきた事で……俺は、何とも思わなかったんだけど…」 「うん…?」 「優琉が…四つん這いになって、俺に見せるのは恥ずかしいって言ったんだ」 「っ!…そっ…そう…」 あれ… そういうの、もう 言わなくていいって、言ったんだけどな… 間宮君…ごめんね 「だからね…優琉が安心出来る様に…座って抱き合う形にしたんだけど…」 「そう…」 ? 四つん這いは恥ずかしいから 抱き合う形… え? まさか最初のセックス、そんな体位でしないよね? セックスの話じゃないのか 「優琉を見て初めて…普通の人の反応を知った。俺は、かなり異常だった。悠兄…初めて俺が脱いだ時…かなりビックリさせたよね?」 「暁…」 そうか これを伝える為に… 「うん…正直…俺は、男同士のとか…全然知らなかったから…何が起きてるのか、全然分からなくて…どうして、そんな事するのかも分からないし…かなりパニックになって…怒鳴っちゃった」 「俺は…優しくされてる意味を…確かめたかった」 優しくされてる意味を… そっか 確かめたかったんだ 不安だから… あの時から暁はもう… セックスでの安心を…欲しがってたんだ 「うん…暁は、必死だったんだよね?ごめんね?怒鳴っちゃって…」 「ううん…皆と同じ普通に近付く度に…俺の異質さを感じる……その度に思う…よく…あんな俺を、父さんと母さん…連れて来てくれたなって…」 「暁…」 「よく…たいして話もしない…異常な行動ばかりする俺を……悠兄…怖いって……気持ち悪いって……嫌いにならなかったなって…」 「暁……おいで」 まだまだ、すっぽりと俺の胸に収まる暁を、抱き締める 「~~っ…悠兄っ…」 「嫌いになんてなった事ないよ。これからもならないよ」 「っ…奇跡っ…だと思うっ……こんなに…温かい人達っ……見付けてもらえたっ…」 「俺も…その奇跡に感謝してるよ。こんな可愛い弟と出逢えた」 ほんとに 大切なんだよ…暁 「~~っ…俺がっ……お腹っ…空いててもっ…電気っ…止まっ…真っ暗で…怖くっても……~~~っ…寂しくてっ…寂しくて……でもっ…誰も…気付いてくれなかった…」 「~~っ…そっか……そっか暁…1人で、いっぱい頑張ったね…」 「母さんに…叩かれて……槇田さんに…~~っ…嫌なっ…事っ…されてもっ……ひっ…1人っ…」 「うんっ……暁…そうだね…暁……凄く頑張ったから…これから、いっぱいご褒美貰わなきゃね…」 電気が止まるとか お腹が空くとか 俺には想像も出来ない日常 そんな環境に…たった1人… 「暁…聞いてもいい?」 なかなか聞けなかったけど 今なら… 「うん?」 「お父さんは…最初から居なかったの?」 「うん…居ない……話…聞いた事ない」 「そっか……お母さんは…その……暁が…凄く小さな頃から…叩いたりしてたの?」 暁を、ぎゅっと抱き締める この小さな体の中に… 痛いものが…いっぱい たった1人で…全部 「覚えてる限り…多分…そうだったんだと思う……あんまり小さな頃の事は覚えてないけど…」 「そっか…」 「あ、でも…この前夢で…凄く小さな頃の事…思い出したんだ」 「へぇ…どんな?」 少し…声のトーンが… 嬉しい思い出なのかな 「母さんが…泣いててね…母さんのとこ行ったら…俺を見て…俺もこうなるんだよな…可哀想だなって…」 「…え?」 なんか… 思ったのと違う… 「生きてんの辛いよなって、優しく撫でてくれたんだ」 「……そっか」 それは… 嬉しい思い出なのかな 優しく…撫でられたから? 「その後、母さん…死のうかって言ったんだけど」 「…えっ?」 「俺を見て笑ってくれてて、嬉しかったの覚えてる」 嬉しかったの…って… 嬉しかったの? 死のうかって笑う母親を見て? 暁の体を離して、聞いてみる 「暁…死のうって言われたのに、嬉しかったの?」 「死ぬって意味…まだよく分からなかったから…」 「~~っ…そっか」 「うん…それより…しっかり俺を見て…俺と話して…俺の事考えてくれてるのが…嬉しかったんだと思う」 死ぬ意味も分からない位小さな時に そんな風に思う程 見てもらえてなかったんだ 話して…考えてもらえてなかったんだ 「暁…」 「母さん…ごめん…ごめんな?って言いながら…俺の首…絞めて…」 「………え?…何…」 「凄く苦しかったけど…辛いよなって…ずっと俺だけ見て…俺の事考えて…沢山俺に触ってくれて…」 「~~っ暁…」 殺され…かけてた 実の母親に… 「だんだん苦しくなくなってきて…母さんの顔が見えなくなってきた時…私もすぐ行くよって聞こえて…意味は分からなかったけど……凄く優しい声で…嬉しかったの覚えてる」 暁…それ… 無理心中しようとした話…だよ 「あの頃は、何にも分からないし、何にも思わなかった。けど…今なら分かるんだ。母さん…自分みたいになるの心配して…自分みたいになるのは辛いから…可哀想だって…一緒に死のうとしてくれたんだ」 「~~っ…暁…」 一緒に死のうとしてくれたって 喜ぶ事? 「そんな風に思うくらい…母さんも辛くて…1人で…辛かったんだ。それが、あまりにも辛くて…きっとね…限界超えちゃったんだ」 「そうかも…しれないけど…」 それは 暁に寂しい思いとか…辛い思いさせていい理由にも 暁の事殺していい理由にも 全然ならないよ 「槇田さんがね…言ってたんだ。まだ優しかった時にね…1人は寂しいよな?って…母さんも寂しがり屋なんだぞ?って…全然俺と一緒に居ないのに、寂しがり屋なの?って思ってた」 「うん…」 「でもね…槇田さん…こうも言ったんだ……寂しいに負けると…傷つけてしまうんだって。なんかね…今なら少し分かるんだ…」 分からないよ 寂しいからって その人も母親も 1番弱くて抵抗出来ない暁を 傷つけていいなんて 許せないよ 「一度こういう幸せ…知ってしまったら…それを失くしてしまったら…それを知る前より…きっと、ずっと寂しいから…だから…」 「暁…?」 暁から抱き付いてきた 「俺も…そうなってしまう前に…見付けてもらえたから……気付いてくれた人が居て…助け出してくれた人が居て…色んな人達が居て…俺は今、ここに居て…そんな風に思えるから…」 「暁…~~~っ…暁…っ…なんで…そんな風に思えるの?」 あんなに喋れなくて…笑えなくなってて… 今でも…深く傷ついてるのに… 「今があるから……悠兄や…優琉や…父さん母さん…沢山の優しい人達に…優しさ教えてもらって……あれが母さんの優しさだった事…母さんの中にも…俺への愛情…少しは…あった事…~~っ…気付けたから……母さんを…傷つてけてしまわなくて…~~っ良かった…」 「暁っ……優しいね…暁は…優しい子だね…」 何も喋らなかった暁… 全然笑わなかった暁… あの時から暁は…生き直してる こんなに優しい言葉を紡ぎながら こんなに優しい涙を流せる様になるまで… 凄いね 強いね もう…あの頃の暁じゃない もう…大丈夫だね…暁

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