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温泉旅館
「それじゃ、行って来るね。暁…何もないとは思うけど、何かあったら何時でも連絡していいからね」
「分かってる。行ってらっしゃい、悠兄。凌久さんと楽しんで来て」
「暁も、間宮君と楽しんでね」
「うん」
今日は、凌久とお出掛け
それも、普通のお出掛けじゃない
新幹線に乗って
ちょっと遠出で泊まりのお出掛けだ
「は~~るき」
「凌久♪︎」
「お待たせ。待った?」
「ううん。ちょっと前に来たとこ。凌久…」
凌久の右手を確認する
「ふふっ…」
「ん…ちゃんと嵌めてるよ」
「何にも言ってなかったからね…凌久どうしてくるかなぁ…って思ってた」
「考えるまでもないだろ?こっから先は、どう見られようが、この先の人生に無関係な人達だからな…物凄い偶然がない限り…」
「うん!行こ!」
何するにも見ちゃう
お揃いで
同じ指に嵌められたペアリング
「ふふっ…」
ダメだ
顔が、にやけちゃう
「あんま、可愛い顔すんな」
「だらしない顔じゃなくて?」
「ただの可愛い顔だ。1番後ろの列で、並びも誰も居なくて助かった」
凌久の少し困った顔好き
「それ以上、こっち見んな」
え…
「あ…ごめん…ちょっと浮かれ過ぎた」
「~~っ…じゃなくて……キス…したくなるだろ」
「………えっ?!」
「声…」
「あっ…」
キス…したくなるだろ
キス…して欲しい
新幹線の中じゃ…無理だけど…
「凌久…」
「何?」
「キス…したいね?」
「っ!…お前なぁ…したくて我慢してんのに、したいねとか言ってくんなよ」
「……ごめん…え?」
え…
凌久が…キスしてくれる
ここ…新幹線の中なのに…
目を閉じると
ふわっと唇の感触を確かめる様に触れて…
また…
離れたくないとでも言う様な唇が
少しずつ離れて行った
「今はこれで我慢しとけ」
「………~~っ…うん」
キス…してくれた
こんなとこで
凌久の唇の感触が…
まだ残ってて…
「~~っ…そんな顔して見んなって…またしたくなるし……他の奴らに…その顔見られたくない…」
そう言って凌久が
俺の頭を、自分の肩に寄りかかる様にした
「凌久…嬉しい」
「ん…分かったから、下向いとけ」
「~~っ…凌久…嬉しくて…泣きそう」
「嬉しいなら、泣いてもいいから、下向いとけ」
「っ…凌久…腕……組んでもいい?」
「……ふっ…ま、いっか」
凌久の肩にもたれかかって
その下の腕を組む
「凌久…好き……」
「ん…俺も好き」
どうしよう
旅行始まったばかりなのに
もう幸せでいっぱいだよ
駅に着くと、バスが迎えに来てくれて
旅館に着くまでの間
「気兼ねなく男同士で旅行ですか?いいですね~」
他にお客さんが居ないので
運転手さんが、俺達に話し掛けてきた
「この辺で、おすすめスポットとかありますか?」
「うちの旅館のすぐ近くに、な~~んにもないとこがありまして、そこから見える夕陽と星空が綺麗ですよ」
「へぇ~…いいですね」
「あ、星空見える様に、夜の照明抑えてますから、部屋にある懐中電灯忘れないで下さいね」
懐中電灯…
そんなに暗くなるんだ
「すっごい部屋だね~…凌久!」
「ちょっと奮発した甲斐があったな」
「海が見える!」
「なんと言っても、部屋に露天風呂付いてんのがな」
「自分達で布団敷いていいなら、くっ付けて敷けるね!」
「ふっ…そうだな」
和室のいい匂い
部屋の中を探索してると
「わっ…」
後ろから抱き締められた
「ずっとこうしたかったのに…悠稀は、俺よりこの部屋の方が気になるんだ」
「そっ…そういう訳じゃないけど…」
「嘘だ…悠稀は、この予想外に素晴らしかった部屋に夢中で…俺の事忘れてたんだ」
「わっ…忘れてなんかないよ!」
くるりと凌久の方を向くと
「ん…知ってる」
物凄く優しい顔が近付いてきたので
目を閉じた
「んっ……んっんっ……んっ…はっ…んっ…」
新幹線の中とは違う
深いキス
くらくらする
「はっんっ……んぅっ…はぁっ…んっ…」
凌久に…掴まってても
力が…
「はぁ…大丈夫?」
「……気持ち…良過ぎて…」
「ん…このくらいにしとく」
「…えっ?!」
「え?あ…続ける?悠稀、館内も探索したいのかなと思ったんだけど…」
「…館内より…凌久が気になってる……」
凌久が、少し驚いた顔をして
「小悪魔め…」
そう言って
「もっと気持ちいいのするから…立ってらんないだろ?」
畳の上に座らせて
もっと気持ちいいキスをくれた
「悠稀…そろそろ夕陽見に行く?」
「ん…」
キスして…くらくらして
畳の上に寝転がって
凌久と抱き合って
またキスをして
いつもとは違う空間で
ずっと凌久の気持ちいいキスの嵐
夢の中みたいだ
「ふっ…まだキス欲しい?」
「欲しいけど…これ以上したら…何も考えられないし…動けなくなっちゃう」
「悠稀がそれでもいいなら…俺はいいよ」
「でも…凌久と綺麗な夕陽見たい」
「んじゃ…起きるか」
「うん」
起き上がって凌久を見る
「悠稀の大好きなキス…特別サービスしたけど、どうだった?」
「夢の中に居るみたいだった」
「ほんとキス好きだな?」
「ううん…凌久のキスが好きなの」
「だから、煽んな」
ピンッと、デコピンされた
「いたい…」
「今のは悠稀が悪い」
「ほんとの事なのに…」
「今晩、俺に特別サービスしてくれるなら、許してやる」
「もちろんだよ…凌久」
凌久と2人で、売店を覗きながら、夕陽の見える場所へと歩く
「海の近くで、高いせいか涼しいね」
「木陰にもなってるしな…悠稀、誰か来るまで手…繋ごっか」
「うん!」
今日通り過ぎた何人かは
俺達の指を見てくれただろうか
何人かは
俺達が恋人同士だって気付いてくれただろうか
小さな森の様な道を抜けると
開けた場所に出た
ほんとに何もない
昔何かがあった場所なのか
綺麗に整備はされてる
俺達の他にも何人か来てて
凌久と軽く目を合わせて
手を離した
ゆっくりと、太陽が海に近付いて行く
親子連れで来てる子供が、はしゃいでいる
女の人2人で来てる人達は、ずっと写真を撮ってる
昔は、考えもしなかった
今見てる親子は、もしかしたら血の繋がりのない親子なのかもしれない
今見てる女の人達は、友達ではなく恋人同士なのかもしれない
今も…楽しくてはしゃぐ世界を、知らずに生きてる子が、居るのかもしれない
ゆっくりと欠けていく太陽
綺麗だと素直に思えてきた俺は
相当恵まれていたのかもしれない
暗くなっていく世界に
怯える経験なんてした事がないのだから
はしゃいでた子供と、その両親が去って行き
女の人達も去って行った
明るかった世界は
暗さと共に静けさを連れて来る
「……悠稀?そろそろもどろうか?」
いつまでも、薄暗くなった海を見ていた俺の手を握ってくれる
「うん……」
「もう少し…見てる?」
「うん……」
暗さを知って、どんなに明るかったのかを知れる
暁と出逢って、沢山の暗さを知った
凌久と出逢って、予想もしなかった暗さを知った
この日常が、どれだけ明るいものなのか……
「悠稀?」
「うん…」
「………悠稀」
俺が泣いてるのに気付いたのに
何も聞かずに
後ろから抱き締めてきた
「凌久…俺は…凄く恵まれてる」
「……そ?俺もだよ」
「凄く…幸せ者なんだ」
「ん…俺もだよ」
俺が動き出すまで
凌久は、ただ抱き締めててくれた
「あっぶな…夕食時間忘れてたわ」
「ごめん…俺のせいで遅くなっちゃった。ご飯の前にお風呂行こうって言ってたのに…」
「ま、いざとなったら、シャワーあるし、露天風呂あるし」
「うん」
部屋に入るとすぐに、豪勢な夕食が運ばれて来た
絶対食べきれないと思ったのに
2人で話しながら食べてたら
お腹はいっぱいなのに、ついつい箸が進み
「もう…動けない……風呂は無理だ」
「うん…俺も。もったいないけど、デザートは残そうっと」
「えっ?デザートは食える」
凌久は、甘い物が大好き
けど、もう動けない程お腹いっぱいなのに…
「凌久って、甘い物なら何でも好きなの?」
「まあ、大体は…けど、和菓子より洋菓子かな…この焙じ茶プリンは、和洋折衷でめちゃくちゃ旨い!」
和洋折衷って…
そんな時にも使われるんだ
しばらくすると、お膳は下げられ
さっさと布団を敷く
「悠稀、働き者~~…もう少ししてからでも、いいんだぞ」
「うん…でも……早く…見たかったから…」
「見たかった?何を?」
「布団…2枚……くっ付いてるの…」
改めて見ると
なんか…
ベッド1つで一緒に寝る方が近いのに…
布団2枚って…なんか…
「エロいな」
「えっ?!」
俺…なんか口に出してた?!
「いや…畳に布団2枚並んでんの…エロいなと思って」
「あ…うっ…うん」
良かった
凌久も同じ事考えてただけだった
「ん~~~…っしゃ!やる気出た。シャワー浴びて来よっと」
「えっ…やる気…」
「ふっ…ん…ヤる気」
凌久が、す~っと俺の頬を撫でてくる
そんな風に触られると…
ふっ…と目を閉じようとしたところで
「待て」
「……え?」
「この続きは、お互いのシャワーの後。それまで待てだ。お利口さんに、待て出来るか?」
「~~~っ!」
ここまで触っておいて?
あんな風に見つめておいて?
お利口さんじゃなくていいから
少しでいいから
「……すっ…少しだけ…くれたら……待てる」
「ふっ…少しだけ?少し貰ったら、もっと欲しくなるだろ?」
「っ…そ…だけど……」
「待ってろ。夜は長いんだ」
そう言って、ぽんっと頭に手を乗せて…
「ほんとに行っちゃった…」
凌久のキスは、麻薬みたい
やめられない
我慢出来ない
欲しくて欲しくて
そ~~っと、脱衣所に向かい
凌久のシャツを手に取る
浴衣に着替えるって言ってたから、いいよね
凌久のシャツを抱き締めて
ころんと布団の上に横になる
凌久の匂い…
凌久のシャツにキスをする
これじゃ俺…変質者だ
「凌久…」
たった2文字
「凌久…」
り…と、く…
それだけなのに…
「凌久…」
言葉にすると
信じられないくらい
愛おしさが込み上げてくる
「凌久…」
すっかり変質者になった俺は
凌久の名前を連呼しながら
そのままウトウトし始めてしまった
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