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第14話 残された絆⑧

 中間テストが無事に終わり、咲人はなんとか全教科赤点を回避することができた。 「お、おわった……なんとか乗り越えた……」 「お疲れ。綾瀬っていつも神崎に勉強教わってんの?」 「うん。理央は俺の先生なんだ」 「先生って……神崎って本当なんでも出来んだな」  そう。今回咲人が赤点を回避できたのも、毎日勉強を教えてくれる理央のおかげだ。 「噂をすれば。ほら、お迎え来てんぞ」  廊下に目を向けると、こちらに歩いてくる理央の姿が見えた。 「北見、また後でな!」  昼休みは空き教室でご飯を食べるのが、理央との日課になっている。  自分はいつも購買で適当にご飯を買うが、理央は食べたり食べなかったり。食べると言っても、購買で売ってるりんごを食べてるところしか見たことないけど。 「理央のおかげで、テストなんとかなったよ。ありがとう」 「良かった。と言っても、僕はほとんど見守ってるだけだけどね」 「でも理央が近くにいると、安心するっていうか……寝そうになったら起こしてくれるし。俺さ、授業中とかも眠いと寝ちゃうんだよね。だからいつも隣の席の北見が起こしてくれるんだ」 「……点呼の後、すぐに寝てないの?」 「んー寝る時もあるけど。消灯までは北見と明日の準備したり、ゲームしたりする時もあるよ」 「……そう」  そのまま理央は俯いてしまった。確か、前もこんなことがあった気がする。そうだ、その時もちょうど北見の話をしてて。 「北見くんはいいよね、僕が知らない間の咲人を知ってる」 「……へ」 「……何でもない。ごめん、教室に忘れ物したから取ってくるね」 「あ、ああ。わかった……」  理央は立ち上がると、空き教室を出て行った。  教室に忘れ物って、理央はいつも手ぶらじゃないか。何でそんな嘘つくんだよ。  再会してからたまに、理央の心を遠く感じる時がある。  ──北見くんはいいよね、僕が知らない間の咲人を知ってる  確かに北見とはクラスメイトで、ルームメイトでもある。でも、それだけだ。それだけなのに。  理央が教室を去る時、耳元がきらりと光った。ふとした瞬間視界に入るその煌めきを、咲人は未だ見慣れないでいる。  再開した時から、理央の左耳にはピアスが開いている。  それはつまり自分の中にも、知らない間の理央が存在しているということだ。  夜の勉強会を終え、下弦寮の出入り口へと向かう。  結局昼休みのことは何も聞けず、夜はいつも通りの理央に戻ってた。  気まずいまま勉強するよりマシだが、また同じような事が起きた時に、どう対処すればいいのかわからない。  咲人的には、北見と理央は同じ弓道部なのだから、できれば仲良くしてほしいと思っている。  別に北見はどうとも思ってないだろうけど、問題は理央の方だ。  こうなってくると、自分と離れていた期間の交友関係が気になってくる。  確か去年理央は留学していたと言ってたけれど、海外では……いや、それ以前も上手くやっていけてたんだろうか。    理央のことを考えながら廊下の角を曲がったところで、苦しむような人の声が微かに聞こえてきた。  声のする方を辿ると、僅かにドアが開いた給湯室。その隙間から見えた光景に、咲人は思わず口を押さえた。  そこにいたのは、おそらく吸血種の生徒と、血を吸われている生徒。  ──どっちも男……?あれは合意……なのか? 「あっ、んんっ…………!」  堪えるような喘ぎ声と、ジュルジュルと血を啜る音がこちらにまで聞こえてくる。  その時、咲人の足が何かにぶつかってしまい、ガタリと大きな音が立った。  金髪頭の吸血種に振り向かれる前に、咲人は全速力でその場から逃げ出した。  すぐに上弦寮まで辿り着き、立ち止まった咲人はぜーぜーと息を吐く。これだけで息が上がるなんて、体が鈍ってきている。ジョギングしなければ。でも今はそんなことはどうでもよくて……  ──血を吸われてた……よな?でもなんであんな……あんな気持ちよさそうな声。  咲人は首元の包帯に手をあてて、あの日々を思い出す。かつて理央としていた、吸血行為。  あれは、決して気持ちの良いものではなかったはずだ。今でも鮮明に思い出せる、この痣を受けた時の強烈な痛み。  ──どうして?だってあれは……あの行為は……『捕食行動』じゃないのか?

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