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第47話 僕の心臓は君の血で染まっている①
暗闇の中で肌寒さを感じて、ふと目を開けた。
あれから素肌のまま眠りに落ちてしまったようで、毛布から出ていた肌が酷く冷えていた。
少し開いたカーテンの隙間からは、朝の日差しが差し込んでいる。
枕元に置かれた時計を確認すると、あと少しで学校が始まる時間だった。咲人は重たい腕の中から抜け出し、体を起こす。
「っ……!」
起き上がった瞬間、全身に酷い筋肉痛のような痛みが走った。そして後ろから、どろりとしたものが垂れる感覚。
昨日は朝から晩まで、理央に抱かれていた。とめどなく溢れてくるそれは、もう何回中に出されていたのかもわからない。
すぐ側にある理央のベッドの上は、精液やら自分の血液やらで悲惨な状態になっていた。理央は一応、咲人のベッドまでは運んでくれたようだ。視線を落とした先には、汚れた自分の制服と理央の制服が、重なるようにして落ちていた。
──無断欠席、か。きっとこれも、先生達から咎められることはないんだろうな。
咲人は憂鬱な気持ちを切り替えるように、手を伸ばしてカーテンを開けた。冬の朝日が眩しい。
「……学校、行かないと」
そう発した自分の声は、風邪を引いた時のように嗄れていた。隣にいる理央は、未だ咲人の腰に手を回しながら、静かに眠っている。この綺麗で穏やか寝顔の持ち主が、昨日自分を手酷く抱いた人物だなんて到底思えない。
「理央、起きて」
すぐ側にある肩を叩き、呼びかける。
「ん……」
「準備するから離して」
その言葉に、腰に回っている腕がびくりと反応した。
「いかない、ずっとここにいよう……」
ぎゅうぎゅうと、自分から離れることを許さないとでもいうように、力が込められていく。
咲人は一つ溜め息を吐くと、その腕を無理やり自分から引き離した。
「俺はお前をおいて行くからな!」
そう叫び、ベッドから降りる。布団が擦れる音がして、理央が起きた気配がした。
「咲人……?」
名前を呼ばれたが、気にせずにシャワー室へ向かう準備を始めた。そのまま登校できるように身支度を整えると、振り返らずに部屋を出る。後ろで何かを叫ばれたが、咲人はそれも構わずに寮を後にした。
爽やかな晴れ空の下、咲人は重たい腰を引きずりながら歩いていた。
朝から晩まで一日中理央によって蹂躙された体は、あちこちが悲鳴をあげている。
沢山泣いたせいで目尻も赤く染まっていて、周囲に不自然に思われないかが不安になってきた。
なんとか予鈴前に教室まで辿り着き、一息つく。扉を開けると、すぐさま北見と高山が駆け寄ってきた。
「綾瀬!昨日、大丈夫だったか?」
「いや、すっごい体調崩してた」
「わ……その声、綾瀬くんじゃないみたい」
「あはは……喉だけ治んなくてさ」
これは一日中理央に抱かれていたせいで、なんて本当のことは言えるわけもなく。
事実を隠蔽するのに、都合よく枯れていた自分の声に助けられてしまった。
しばらくして授業開始のチャイムが鳴ると、それぞれが自分の席へと戻って行く。
一限目の授業を受けながら、理央のことを考えていた。あの後ちゃんと起きて、登校しただろうか。
連絡を入れてみようかとも思ったが、それはやめておくことした。理央には少し、反省してもらいたい。
そんなことを考えていたら、いつの間にか一限目の授業は終わっていた。
こういう日は大体、不運が続くものだ。
こんな日に限って、体育がある。しかも長距離だなんて。
普段の自分なら楽勝だけれど、今日はさすがにきついかもしれない。それでも咲人は、休むことを選びたくなかった。
授業が始まり、他の生徒たちと同じように咲人も列に並ぶ。スタートの合図を待っていると、隣に立っていた北見に話しかけられた。
「もう動いて平気なのか?」
「大丈夫大丈夫」
そうは言いつつも、咲人は体の不調をひしひしと感じていた。
──お腹、痛い。
昨日、あのまま寝たからだ。それに朝からずっと、頭痛もする。その違和感に、見ないふりをして。
スタートの合図が切られ、咲人は走り出した。走る距離は千五百メートルで、校庭トラック四周分。全然大したことはない。しかしそのペースは常よりも格段に遅い。それでもなんとか四周目に差し掛かったところで、咲人の体は地面に倒れた。体は地面に張りついたまま、起き上がれそうもない。
朦朧とする意識の中で、大勢の生徒が自分を呼んでいる声だけが聞こえていた。
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