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第7話 発情3*悠里side
発情期がこんなタイミングでやってくるなんて思いもしなかった。
佐倉悠里(さくら ゆうり)は額に汗をにじませていた。
今はΩピルを呑んだので興奮状態は少し治まった。
悠里がヒート状態を体感するのは実に3年ぶりだった。
何年も経っていたからなのか、それは今までになく激しい発情だった。
フェロモンを垂れ流し、穴という穴から下品によだれを滴らせ、下等生物である自分を、これでもかと、どん底まで突き落としていく。
落ちていく感覚は脳を侵食し、とめどなく溢れる涙に自分の非力さを認識させた。
長い射精の後、αの男は体重をかけないように、配慮しているのか片腕を床につき、抱きかかえるように悠里の背中にぴたりとくっついていた。
この男の匂いは濃厚だ。少し嗅いだだけで意識がぶっ飛んでしまうほど頭の芯を麻痺させる。
皮膚が重なり合い、その体温に喜びを感じながらも、この場を早く立ち去らなければという焦燥感に駆られた。
「……のっ、退いて……もう……」
一刻も早く彼に離れて欲しかった。
αの精子を注がれた体は熱を持ちひくひくと痙攣している。
こんなに自分が敏感になり、後孔をかき回されて我を忘れるほど快楽に溺れるなんて。
我慢することができず、ひっきりなしに甘い声をだしαの男根を欲しがるなんて。
自分が絶頂の快感を味わったなんて絶対に悟られてなるものか。
悠里は尻の中にいまだに挿入されたままのモノを抜くために膝を進めた。
ずるりと引き抜かれるその感覚に、また声が漏れそうになる。必死に我慢して倒れこむように床に突っ伏した。
それだけの動作で息が上がってしまう。その様子をみて、αの男はクスリと笑ったようだった。
ゴロンと悠里を仰向けにし、持ってきていたタオルを手に取り、悠里の汗と涙で汚れた顔をぬぐった。
「きれいな顔だな」
αの男はそういうと右手で悠里の髪を撫でて、そのまま唇を額に落とした。
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流石にこのまま、ここにずっといる訳にはいかないからと、αの男は立ち上がった。
いろんな体液が吸収されたタオルを持って、洗ってくるからちょっと待ってろと言い、少しの間でも離れがたいというように、悠里の顔や髪に触れキスをした。
どこからか、持ってきてくれていたペットボトルを『飲んで』っと言って悠里に渡して、、彼は部屋を出ていった。
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ふと、時計に目をやった。悠里は一気に現実に引き戻された。
まずい……もう日付が変わろうとしている。0時から仕事がある。
だが、ヒートが来ているため休みを取らなければならない。会社に電話しなければ。
そしてここを掃除しなくちゃ……床が自分の体液で汚れてしまっていて、このままでは何があったか他の人にすぐにバレてしまう。
悠里は焦った。
足に力を入れたが、膝が笑ってしまい、上手く立ち上がることができない。
それに股の間から、さっき悠里の中で大量に出された精子がドロリと流れてくる。
恥ずかしさのあまり尻に力を入れる。動きたくない。
だが悠長に彼が戻ってくるのを待っている場合ではない。
残されていたタオルを尻の間に挟み、その上からボクサーを履いた。暗闇の中スマホのライトを頼りに四つん這いになって部屋の隅のドアへ向かった。
多分ここの職員は知らないだろうが、この資料室の奥には小さな水道とモップなどがしまわれている物置部屋がある。
悠里はそこまでなんとか這っていき、10分ほどで何とか身体をきれいにした。
そこからの悠里の動きは早かった。電気をつけて床の汚れを確認し、窓を開け、空気を入れ替え、床の上に清掃用の脱臭スプレーを吹きかけ一気にモップをかけた。
洗わなければならない物はすべてビニール袋にまとめた。
椅子やテーブルなど、動いてしまった物を元の位置に戻し、最終確認し窓を閉めた。
ここまでで使った時間は20分ほどだった。
ゴミ袋を抱え、多分あのαの物であろう鞄と資料は、揃えて机の上に置いた。そして急いで、資料室を出た。
彼が帰ってくるまでに(いや、もう戻ってこないかもしれないが)とにかくバレないようにここから立ち去らなくてはいけない。
ありがたい事に悠里のヒートは、抑制剤と胎内に注がれたαの精子のおかげで落ち着いていた。
今のうちならタクシーで家に帰れるだろう。悠里はエレベーターを敢えて使わず、階段を使って下までゆっくりと降りていった。
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『夜空に昇ってきてすぐの満月が夕焼けと同じ仕組みで、レイリー散乱によって燃えるような赤色にみえました』と夕方の天気予報で言っていた。
レイリー散乱とは光の散乱の種類である。
今夜昇ってきたばかりの月が赤月だったのはこの現象によるものだ。
昼間の空が青いこと。
夕方の空が赤いこと。
水が青く見えること。
雪が白く見えること。
これらの現象は光の散乱でそう見えているだけの事である。
願いが叶うなら、光の散乱により、自分も違う色に見えていて欲しい。彼が突発的に抱いた男は、光のように消えてなくなったんだ。
もう二度と彼には遭遇したくない。
悠里は強くそう願った。
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