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第18話 フラッシュバック

土曜日は仕事が休みだったので朝食を一緒に取った。 掃除機をかけ洗濯機を回してから僕が買い物へ行くというと、梶さんも一緒に行くと言ってくれた。 「ならば車を出してもらってもいいですか?」 お米が買いたかったので嬉しかった。 少し離れた大型スーパーまで連れて行ってもらうことにした。 その大型スーパーは高級志向の人でも満足のいく品揃えらしく、魚や野菜は新鮮で比較的値段もリーズナブルらしい。ネットの記事で読んで、一度行ってみたいと思っていた場所だった。 梶さんがカートを押してくれた。 なんだか新婚夫婦みたいだなと思って、悠里はふふっと笑った。 「なに?」 不思議そうに眉を上げて尋ねる梶さんに、何でもないですと返事をする。 こんな瞬間がとても幸せだった。 このスーパーは輸入食材の品揃えも豊富で、見たこともないワインやチーズなどがたくさん置いてあった。 初めてきた大型店に気持ちが高ぶった。ワクワクした感覚に、子供の頃初めて母親に連れて行ってもらった遊園地を思い出した。 あんな母親でも僕にとっては大事な人だった。 家族で買い物に来ていた子供が、お菓子売り場で泣きながら座りこんでいた。 買って欲しいお菓子があるようだ。困り果てた母親が仕方なく買い物かごにその菓子を入れた。 そんな光景を見ながら、母親が助けてくれると信じて疑わない子供の癇癪と同じように、自分の全てを梶さんに受け止めて欲しいと思った。 ――その時だった。 まさかの人物が目にとまった。買い物に来ていたカップル。男の方に見覚えがあった。 60歳くらいのその男は全身ハイブランドの黒い服を着て、金のロゴが大きく入っているセカンドバッグを右手で持っていた。 左の手首にキラキラした金の腕時計が光っていた。 若い女性を横に連れて、高級ワインを選んでいる。 誰もが目を奪われるような美しい女性は多分Ωだろう。 数年前に比べると、幾分薄くなった髪の毛をかき上げているその男は、悠里の父親だった。 急激に気分が悪くなってきて、吐き気を催した。悠里は体制を保てなくなった。 体がガクガク震えだし異様な寒気がした。 ――フラッシュバック。 動かなくなった母親が首をつっている情景が突然、非常に鮮明に思い出された。 その後の記憶はあやふやだ。 とにかく一刻も早く家に帰りたい。 「どうしても……今すぐ帰りたいです」 悠里はすがるように梶さんにお願いした。 梶さんは驚いた様子でふらつく悠里を支えた。 何かあったのだということは悠理の様子から気付いたと思うが、理由は聞かず車で家まで戻ってくれた。 車内で「大丈夫?」と話しかけてくれたが、悠里は返事ができなかった。

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