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第50話 ユングフラウヨッホ*

ヨーロッパで一番標高が高い鉄道、ユングフラウヨッホの駅に着いて、高速エレベーターに乗って、標高3571メートルまで上がった。 スフィンクス展望棟、アレッチ氷河雪原、アルパイン・センセーション、氷の宮殿を見学した。 「わー……すごい梶さん!」 どこを観ても目を輝かせながら興奮している悠里が可愛くて、梶は満足そうに微笑んだ。 悠里は登山の経験がなく『山を舐めてはいけない』とこんこんと梶に教えられてから登山鉄道に乗車しなければならなかった。 パンフレットを見ながら、日本の大正元年にあたる1912年、そんな昔によくぞここまで鉄道を引いたなと悠里は感心した。 展望テラスで奇跡の絶景を目の前にし、その壮大さにただ茫然としてしまった。山に夢中になるアルピニストの気持ちがわかるような気がした。うねるようなカーブを描きながら永遠に続くアレッチ氷河、東京の中で生きている自分が本当にちっぽけな存在に思えた。 展望テラスにあるドームの建物は、現在は天文観測としての役割を終え、高地山岳研究所としてさまざまな科学研究が行われているそうだ。もし生まれ変わったなら今度は理系の学問を究めて違う道を歩いてみるのもいいなと思った。人生はやりたいことをすべてやるには短すぎるなと感じるひと時だった。 「アレッチ氷河の上を、山岳ガイドと一緒に歩く2日間のトレッキングツアーっていうのがあるんだって、梶さん行ってみたいですね」 「応援するよ、がんばれ」 ツアーのポスターを見ながら悠里がはしゃいで言うと、梶さんは勘弁してくれと言わんばかりにぽんぽんと悠里の頭を叩いた。 今までのハイグレードな行程とは違って、スイスでの行程は観光客に押されながら席を確保したり、大きな荷物を抱えて移動したりでかなり大変だった。 だが大自然を眼前に捉え、その偉大さを体感できて悠里はとても満足だった。 スイスだからチーズばかりで重たいかなと思った食事は意外と口に合った。ピザ、パスタ、ボリュームのある肉料理、柔らかい魚料理とどれも味がよかったので沢山食べた。 もう旅行もこれで終わってしまう。スイスが最終目的地で明日は日本に帰るのかと思うととても名残惜しく。レストランで急に寂しくなってしんみりした気分になった。 「大丈夫?」 梶が心配して訊いてきたので、つい 「幸せ過ぎて、僕はもういつ死んでも構わない」 悠里はそう言って深いため息をついてしまった。 「高山病かな……」 と真面目に心配して梶は悠里の額に手を当ててきたので「冗談です」と笑顔で返した。 ホテルに帰って、風呂で体を温めた後二人で時間をかけて体を重ね合わせた。 悠里は初めての騎乗位に挑戦した。 じりじりと悠里の中に納まっていく梶の猛々しいモノはアイガーのように硬く高くそびえ立って悠里を貫いた。 落ち着くまで待って、悠里はゆっくりと腰を前後に揺らし始めた。 夜なのに雪に反射して明るい光が窓から入ってくる。それに照らされて青白く光る悠里の裸体はこの世のものとは思えないほど美しかった。 『幸せ過ぎて、僕はもういつ死んでも構わない』 悠里は死んでもいいと冗談で言ったが、そんな事がもしあるのなら、残された自分は生きてはいけないだろうと梶は思った。 ねちゃねちゃと音を立てながらびっちり絡みつく悠里の後孔を感じながら、妊娠させたいと梶は思っていた。上に乗りながら反りかえる上半身から目が離せなかった。 この腹が自分の子を宿し丸く膨らんでいく姿をいつか近い将来見る事ができるのだろうか、悠里は項を噛むことを許してくれない。1年間司法修習生の期間が終了し完全に自立できるまでは待って欲しいと言った。 梶にとって1年は長すぎる。

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