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第32話 生け贄の王子(6)

 3ー6 お姫様  スラムの入り口まで馬車で行くと僕は、ローザの娼館まで歩いて帰った。  もう、時刻は夕方で。  スラムの通りには、怪しい連中や、娼婦や男娼を買いにきた客たちが歩いていた。  中には、僕に気づく者もいて、声をかけられることもある。  「よう、王子様じゃねえか」  酔っぱらった男が僕に絡んできた。  「こっちで酌でもしてくれよ、王子様」  「いや、こいつは、今じゃ、お姫様だぜ」  連れの男が下卑た笑いを浮かべる。  「ちょっと俺たちにもサービスしてくれよ、お姫様」  僕が無視して通りすぎようとすると男が僕の腕を掴んだ。  「つれねぇな」  「このお姫様は、尊い身分のお方しか相手してくれないのさ」  いつの間にか、僕たちの回りには、人だかりができていた。  僕は、なんとかこの場から逃れようと男たちの手を振りきろうとしたが、他の者に前を遮られた。  「へへっ、たまには、俺たちにもいい思いさせてくれよ」  逃げられない。  僕がそう思って覚悟を決めようとしたとき、僕を取り囲んでいた男たちが何かに気づいて道をあけた。  顔を上げるとそこには、白いローブ姿のラクウェル兄が立っていた。  「ラクウェル、様・・」  「来い!」  ラクウェル兄は、僕の手を掴むとさっさと歩き出した。  夕暮れの人混みの中、ラクウェル兄は、無言で僕を引っ張って歩いていく。  通りの中央にある一際大きなレンガの建物がローザの娼館だ。  玄関前に立っている用心棒が僕たちを見るとすぐに扉を開いた。  ラクウェル兄は、僕を2階にある僕の部屋まで連れていくとベッドへと投げ出した。  「なぜ、1人でうろうろしている?護衛はどうした?」  ラクウェル兄が冷えきった声で僕に訊ねた。  ローザは、僕に護衛をつけようとしてくれたが、それは、僕が断っていた。  貴族のご令嬢でもあるまいし。  小柄ではあるが僕は、男だ。  「答えろ!レリアス」  ラクウェル兄に詰問されて僕は、体が震えるのを止められなかった。  「あ・・僕、がいらないって言ったから・・」  「愚か者が!」  ラクウェル兄が吐き捨てる。  「お前は、もう、ただの牝だということ、まだわかってないようだな」  ベッドの上に投げ出されている僕の方へとラクウェル兄がのし掛かってくる。  「あっ・・」  僕は、体の震えを堪えられなかった。  「ゆ、許して・・」  

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