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第37話 生け贄の王子(11)
3ー11 光
「墜ちたな」
ラクウェル兄の言葉を僕は、夢うつつの中できいていた。
「これで、この王国は、我々のもの、だな、ラクウェル、よ」
誰かの低い声がきこえるけど、僕は、眠くて。
ラクウェル兄の腕に抱かれて僕は、うつらうつらしていた。
ラクウェル兄は、僕の髪を優しく撫でながら低く笑った。
「これを墜とせば後は、容易い」
「残るは、弱々しい聖女、か」
誰かが言った。
「あの女は、どうするつもりだ?ラクウェルよ」
「ああ?」
ラクウェル兄が楽しげに言い放った。
「そうだな。リリアンは、予定通り妃とするか」
「その性奴は、どうする?」
声にきかれてラクウェル兄が答えた。
「こいつは、弄ぶだけ弄んだら、魔物にでもくれてやるか」
「もったいない話だな」
声の主が下卑た笑い声をあげる。
「これだけ仕込んであるのだ。私が頂こう」
「お前が、か?」
ラクウェル兄がくっくっと笑い声を漏らす。
「お前の相手とは、レリアスもまだまだがんばらないといけないな」
「ん?」
僕は、うっすらと目を開けるとラクウェル兄を見上げた。
「何をがんばるの?」
「なんでも、ない」
ラクウェル兄に微笑みかけられると僕の中にあった不安がすぐに消えていくのがわかった。
僕は、ラクウェル兄の胸に頬を寄せた。
「なら、いいんだ」
でも。
僕の胸は、騒いでいた。
何か。
僕は、忘れているような気がして。
こんな、幸せの中で揺蕩っていてはいけない、と何かが僕の中で騒ぐ。
はやく!
はやく、行かなくては!
どこに?
僕は、自問自答した。
もう、どこにも行かなくてもいいんだ。
だって。
ラクウェル兄がいるから。
僕には、愛してくれる人がいる。
王国のことも、妹のことも。
もう、どうでもいい。
僕は、ラクウェル兄の胸に甘えて目を閉じた。
レリアス!
不意に誰かの声が聞こえた。
うん?
僕は、なんとか思い出そうとした。
誰、だった?
僕を呼んでいるのは、誰?
そのとき。
僕の胸元にかかっていたペンダントが白く輝いた。
それは、柔らかくて暖かな光。
僕の魂までも包み込むような優しい光に僕は、包まれていた。
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