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第64話 初恋(12)
5ー12 別れ
ラクウェル兄は、くっくっ、と低く笑った。
「お前たちも、そこで見物しているがいい」
どん、と地響きがしてハジメとリリアンの周囲に透明な障壁が張られるのがわかった。
「さあ、始めようか、レリアス」
ラクウェル兄が僕を見てにやりと嗤う。
僕は。
なんとか抗おうとしたが身動きもとれなくて。
会場の貴族たちが何を期待しているのかわかって、僕は、涙を溢れさせた。
こんな場所で。
僕は、何より、ハジメの目の前で凌辱されることが堪えられなかった。
「ハジメ・・見ないで・・」
僕は、消え入りそうな声でささやいた。
そのとき。
触手の群れが僕に襲いかかってきて。
僕は、固く目を閉ざした。
次の瞬間。
「ぎぃやあぁあっ!!」
人々の叫び声に僕は、目を開いて足元を見た。
そこには、地獄のような光景が広がっていた。
「さあ、みな、今宵の宴を心行くまで楽しむがいい!」
ラクウェル兄が高らかに笑い声をあげる中、触手は、その場にいる人々を喰らい始めた。
逃げ惑う人々の叫び声。
断末魔の悲鳴。
僕は、恐怖のあまり声も出なかった。
朱色に染まる玉座の間。
無事なのは、ラクウェル兄とリトアール公爵、触手によって吊られている僕、そして、ラクウェル兄の障壁によって閉じ込められているリリアンとハジメだけだった。
あっという間の出来事に僕は、かたかたと震えていた。
すべてが終わると、触手は、僕をラクウェル兄の側へと下ろした。
「あ・・に、上・・・」
涙ぐんで立ち尽くす僕にラクウェル兄は、手を伸ばした。
「レリアス」
その瞬間、ラクウェル兄がごぼっと血を吐くのが見えた。
「ラクウェル、兄上!」
僕は、ゆっくりと倒れるラクウェル兄へと手を伸ばした。
だが。
兄上は、僕の手を振り払い倒れ落ちた。
僕は、ラクウェル兄に駆け寄り助け起こそうとした。
「ラクウェル兄上!」
「レリアス・・」
ラクウェル兄が僕の頬に触れた。
冷たい指に僕は、背筋が震えた。
「しっかりしてください!ラクウェル兄上!」
「レリアス・・」
ラクウェル兄が微笑んだ。
「泣いているのか?バカなやつだな・・」
「ラクウェル、兄上!」
「これで、お前は、自由だ。嬉しいか?」
ラクウェル兄が僕の髪を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「ああ・・もう、お前が見えない。お前の美しい赤い瞳が・・」
「兄上!」
「もう、俺から離れろ、レリアス」
ラクウェル兄が僕を突き離そうとしたので僕は、いやいや、と頭を振った。
ラクウェル兄は、口許を綻ばせる。
「しょうがない奴だな、お前は」
「あ・・あに、う、え・・」
泣いている僕にラクウェル兄が優しく笑いかけた。
「もう、どけ。邪神が来る。この体は、契約で奴にくれてやることになっているんだ」
触手が伸びてきて僕をラクウェル兄から引き離す。
「さらばだ、レリアス」
ラクウェル兄の姿が触手の中へと飲み込まれて消えていく。
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