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第65話 初恋(13)
5ー13 生け贄
建国祭が過ぎて僕は、28才になった。
今、僕は、ローザの元に身をよせている。
「いい加減に諦めてお戻りになられてください、レリアス様」
娼館の僕の部屋に押し掛けてきているのは、リトアール公爵とリリアン、ハジメたちだった。
「そうよ、レリアスお兄様。次期王であるあなたがいつまでもこんな場所にこもっていたら国が滅んでしまうわ」
リリアンが僕に噛んで含めるようにいってきかせる。
「それじゃ、ラクウェルお兄様も報われないわ!」
ラクウェル兄。
あの、パーティーの夜。
ラクウェル兄は、姿を消してしまった。
「ラクウェル様は、国を蝕む毒虫どもを道連れに逝ってしまわれた」
リトアール公爵がぽつりと漏らした。
後でリトアール公爵にきいたところでは、このシュテルツ王国は、父王の前の代からすでに傾きかけていたのだという。
「ラクウェル様は、この国を掃除してからレリアス様に引き渡すつもりだったのです」
リトアール公爵が話してくれた。
「そのために邪神の生け贄になることを選ばれたのです」
5年前。
邪神の生け贄となったラクウェル兄は、この王国が僕の代で滅ぼされることを知った。
僕が断頭台にかけられる未来。
「それを防ぐためにラクウェル様は、悪魔になる決意をされたのです」
リトアール公爵は、語った。
「すべての病巣をあぶり出して、切り取り、その上でレリアス様、あなたに国を託されたのです」
「でも、僕は、もう王になんて」
僕は、この3年間、ラクウェル兄の性奴だった。
そんな者が王になることなんて。
「それでも、ラクウェル様は、あなたを王にするために命を賭けられた」
リトアール公爵が僕を凝視した。
「わざわざ悪名を着るために、あなたを無理矢理従わせて」
ラクウェル兄は、なぜ、すべてを僕に話してくれなかったのか。
僕だって。
知っていれば兄上だけに苦しみを背負わせはしなかったのに。
「ラクウェル様は、邪神に乗っ取られそうになるたびにあなたを抱いて魂を取り戻していたのです。女神の加護を持つあなたの気によってラクウェル様は、魂を保っておられたのです」
「なぜ・・」
僕は、リトアール公爵に訊ねた。
「なぜ、ラクウェル兄上は、僕のためにそこまで?」
「それは」
リトアール公爵が答えた。
「あなたは、あの方にとって初めて愛した人だったから」
リトアール公爵は、遠い目をした。
「あの人にとっての初恋でしたからね」
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