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第87話 邪神の国(9)
7ー9 嫉妬
そのパーティーは、マハラート王国の王都マハランの貴族街の中央にある現王の王弟の 屋敷で開かれていた。
王弟であるコンラート公爵は、ハジメと一緒に馬車を降りた僕を迎えると僕の手をとって口づけた。
「よくお越しくださいました、レリアス様。いや、シュテルツ王国次期国王レリアス・ラス・オ・シュテルツ陛下」
はい?
僕は、慌てて否定した。
「僕は、レリアスですが、シュテルツ王国の次期王ではありません」
「そうなのですか?」
コンラート公爵は、ちらっとハジメを見た。ハジメは、こくっと頷く。
「レリアスは、国王になることを拒否しているから、次期王は、妹であるリリアン様になる予定です」
「なるほど」
コンラート公爵の目がきらっと輝く。
「では、レリアス様は、王兄になられる、と?」
「はい」
僕が答えるとコンラート公爵は、なにやら考え込んでいる様子だったが、すぐに笑顔で礼をとった。
「では、ぜひ、このパーティーを楽しんでいってください、レリアス様」
僕とハジメは、人でごった返した会場の中を歩いていく。
遠くにレディ カルプニアの姿があった。
ハジメが僕の手をひきレディ カルプニアの方へと向かった。
「テシガアラ様」
レディ カルプニアが美しく微笑む。
豪奢な金色の髪にキラキラ輝く美しい空色の瞳の透けるように色の白い美少女レディ カルプニアは、僕に向かって完璧な礼をした。
「紹介しよう、レリアス。こちらは、俺の仕事の共同経営者であるレディ カルプニアだ。レディ カルプニア、こちらは、僕の婚約者のレリアスだ」
「はじめてお目にかかります、レリアス様」
レディ カルプニアは、僕に眩しいばかりの笑みをむけた。
「お噂は、テシガアラ様よりいつもお聞きしておりました。お会いできるのを楽しみにしておりましたの」
僕は、狐につままれたような気分で二人のことを見つめていた。
うん。
ハジメとレディ カルプニアは、中むつまじく微笑みあっていた。
お似合いの二人、だ。
僕は、目の前が暗くなっていくのを感じていた。
ここから離れたい。
僕は、ハジメたちに背をむけ駆け出した。
背後でハジメの僕を呼ぶ声がきこえたけど僕は、立ち止まらなかった。
僕は、人混みを抜けて暗い庭園へと出た。
夜風が冷たくって僕は、ぶるっと震えた。
でも。
今は、二人のもとには戻れない。
僕は、暗くて寒い庭園の中を歩いていた。
僕は。
何をやっているのか。
僕の頬を涙がぽろぽろと流れていく。
懸命に国を建て直そうと考えていたけど、何もできなかった。
なのに。
ハジメたちは、それを簡単に解決してしまった。
しかも、ハジメは。
僕は、美しいレディ カルプニアのことを思い浮かべていた。
あんなに艶やかで年齢もハジメと釣り合うお嬢様ともと男娼である、とうのたった僕では勝負にもならない。
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