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第88話 邪神の国(10)

 7ー10 目撃  僕が庭園の中を歩きながら泣いていると、誰かが背後から声をかけてきた。  「どうしたんです?かわいい人」  振り向くとそこには、思いがけない人物が立っていた。  長い黒髪が美しい男は、僕をその青い瞳で捕え離さなかった。  「あなたは・・」  それは、僕が娼館で出会った男だった。  あのとき。  触手が助けてくれなかったら僕は、この男に抱かれていた。  僕は、後ろずさろうとしたが、男に腕を掴まれて逃れられない。  「あなたは、あの夜の」  男が僕を覗き込むと僕の腰に手を回して僕を抱き寄せた。  「あなたを探していた。どうしてももう一度会いたくて」  「お・・かまいなく」  僕は、男の胸元に手を置き押しはなそうとしたが、男は、僕を抱き寄せて離そうとはしなかった。  「あの夜のことが忘れられない」  男は、僕を抱いたままささやく。  「まさか、こんな場所で再会できるとは。これは、運命に違いない」  いや。  運命なんかじゃ。  僕は、なんとか男の腕から逃れようとしたががっしりと抱き締められて身動きもとれない。  「は、なしてください!」  僕は、男の胸元を掴んで声をあげた。  「人を呼びますよ!」  「それは、困る」  男は、僕の顎を掴むと荒々しく口づけて僕の口をふさいだ。  「んぅっ!」  僕は、拒もうとしたが男の巧みな舌が僕を翻弄する。激しく口中を乱され僕は、何も考えられなくなっていく。  それでも男の胸元を僕は、どんどん、と叩いて体を離そうとした。男は、僕の手を捕えると僕の唇を甘く噛んだ。  「あの夜・・あなたが与えてくれたものを返したいとずっと思っていた」  男が僕の耳元でささやく。  「どうか、私の伴侶になって欲しい」  はい?  僕は、驚いていた。  僕を伴侶に?  「僕が誰かも知らないのに?」  「ああ」  男が僕を近くのベンチへと導きそこに座らせた。  「邪神に導かれし運命の恋、だ。あなたがどこの誰であろうともかまわない。どうか、わたしの妻になって欲しい」  「それは・・」  僕ができない、そう答えようとしたとき、足音がきこえて。  顔を向けるとそこには、ハジメの姿があった。  「ハジメ!」  「レリアス」  ハジメがぎらぎらと目を輝かせて僕たちを見つめていた。  

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