4 / 37

第4話

 ユリは何も答えず泉の縁にもたれかかり荒い息をし続けている。どうやら泉に隠れていたようだが、息が続かず諦めて出てきたようだ。 「お前、いつも一緒の奴はどうしたんだよ」  ユリが一人でいることに違和感を感じて聞く。  わざわざ水中に隠れていた理由も気になる。 「……うるさい。ほっといてくれ」  ユリはライモの目を見ずに言った。  ユリは濡れた髪を鬱陶(うっとお)しげにかき上げた。  水滴が滑らかな頬を伝い流れていく。  ライモはユリの色気にゾクリとした。  ユリの呼吸は依然として荒く、頬や長い耳が赤く上気している。  水中で息を止めていたから苦しそうなのだと思ったが、それだけでは無い様子だ。 「お前……どっか悪いのか?」  少し心配になり、そう聞いてユリに近付いた瞬間。  風向きが変わり、突如、物凄く甘い香りがライモの鼻を突いた。  つい先程ユリから微かに感じたあの匂いと同じだと分かったが、先程とは香りの量が桁違いだった。  そのことでライモはあることに気付いた。 「お前っ! Ω(オメガ)か⁉」  ライモは驚いて後ずさり、鼻を腕で塞いだ。 「なっ! なんで……!」   ユリが驚きの表情を見せる。 「なんでわかったのかって? 俺がα(アルファ)だからだ!」 「まさか! オークにαなんて……」  オークなんて下等な種族にαなど居ないと思っていたのだろう。  暴言を吐かないユリでも結局はオークを下に見ているのだと感じライモは苛立った。 「俺たちの種族でも一割はαだ!」

ともだちにシェアしよう!