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第6話
暖房の効いた店に入ると、外との温度差に肌がざわざわと落ち着かない。上着を脱ぎ休憩スペースに腰を下ろすと、キッチンから奥田がやってきた。
「圭くんはどうだった?」
「昨日と同じかと」
「一日だけじゃそんなに変わらないか」
残念そうな笑みだったが、その瞳の奥は安堵の色をたたえている。どうして赤の他人に肩入れできるのだろうか。自分が生きていくだけで、精一杯で他人など構っていてもなんの得にもならない。
久しぶりに使った頬の筋肉を解していると、向かい側に座った奥田が小さく笑った。
「そんな顔したら、イケメンが台無しだよ」
「久しぶりに笑顔なんてつくったから、疲れたんです」
「へえ、潮見くんの笑顔か」
弱みを握りました、とばかりに意地の悪い表情に変わる。眼鏡の奥の瞳が細められ、潮見を見透かすように鋭くなる。
「俺だって笑うときくらいあります」
「そうじゃなくてさ。やっぱり潮見くんは優しいなと思ったんだ」
「優しくなんて」
あるわけがない。俺はみんなを残して逃げ出した男だ。
「優しいよ。俺が頼めば嫌な顔せずにやってくれるし」
「それは奥田さんに恩があるからです」
「じゃあ無意識でやってるの?」
天然さんなんだね、と笑われた。まったく意味がわからない。
唇を尖らせると奥田は、意地悪しすぎちゃった、と謝られた。全然心が籠もっておらず、潮見はぶすりとした表情のまま次の配達へと出かけて行った。
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