6 / 22

第6話

 暖房の効いた店に入ると、外との温度差に肌がざわざわと落ち着かない。上着を脱ぎ休憩スペースに腰を下ろすと、キッチンから奥田がやってきた。  「圭くんはどうだった?」  「昨日と同じかと」  「一日だけじゃそんなに変わらないか」  残念そうな笑みだったが、その瞳の奥は安堵の色をたたえている。どうして赤の他人に肩入れできるのだろうか。自分が生きていくだけで、精一杯で他人など構っていてもなんの得にもならない。  久しぶりに使った頬の筋肉を解していると、向かい側に座った奥田が小さく笑った。  「そんな顔したら、イケメンが台無しだよ」  「久しぶりに笑顔なんてつくったから、疲れたんです」  「へえ、潮見くんの笑顔か」  弱みを握りました、とばかりに意地の悪い表情に変わる。眼鏡の奥の瞳が細められ、潮見を見透かすように鋭くなる。  「俺だって笑うときくらいあります」  「そうじゃなくてさ。やっぱり潮見くんは優しいなと思ったんだ」  「優しくなんて」  あるわけがない。俺はみんなを残して逃げ出した男だ。  「優しいよ。俺が頼めば嫌な顔せずにやってくれるし」  「それは奥田さんに恩があるからです」  「じゃあ無意識でやってるの?」  天然さんなんだね、と笑われた。まったく意味がわからない。  唇を尖らせると奥田は、意地悪しすぎちゃった、と謝られた。全然心が籠もっておらず、潮見はぶすりとした表情のまま次の配達へと出かけて行った。

ともだちにシェアしよう!