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第11話
夜風が気持ちいい。
冷たい風が潮見の身体を追い抜き、火照った頬の熱を冷やしてくれる。酒は一滴も飲んでいないのに、酩酊しているように気分がいい。
山野辺とは連絡先を交換してから別れた。
「また飲もうな」と念を押され、ふらつく足で帰路につく背中を見送った。家に帰れば奥さんがいるのだろう。その足取りは軽やかにみえた。
誰かが自分を待っていてくれる図、が想像できない。
ただいま、おかえり、今日はどうだったの、と一連の儀式みたいなことをするのだろうか。それともさっさと寝てしまうのだろうか。
わからない。あれからずっと一人で生きてきたから。
夜の帳が下りてきて、空には薄い星が瞬く。
冬は空気が澄んでいるから星空がよくみえるんだっけ。目を凝らしても、ゴマ粒ほどの光しかわからない。街灯の明るさに負け、遠慮がちに光ってるみたい。すいませんね、ちょっと光らせてもらいます、と肩身が狭そうに。
同じ星でも明るさによって一等星、二等星と分けられる。遠い地球からみれば違いなんてわからないのに、それを細かく分別している。人間かクローンの違いを探すように。
昔の記憶が蘇る。
『どうして先生と俺たちは違うの?』
和やかだった空気がぎゅっと萎んだ。
『うまく説明できないけど、俺たちと先生たちで纏う空気が違う』
どうして、と問うと、ぎこちない笑みを浮かべて気のせいだ、と言った。その表情が引き攣っていたのを今でもよく覚えている。
子どもが言うことなんて流してしまえばよかったのに。みんな、俺たちを恐れていたのだ。
施設を出て特別な目を持っていることを知った。クローンか人間かを見分ける力。ごく稀に持っている人もいるらしいが、今のところ出会ったことがない。
この目があったから施設から逃げ出せたし、圭のことも見つけることができた。
「いま、何してるかな」
圭はどうしているだろう。また殴られているだろうか。それとも、無理やり身体を開かされているのか。
クラゲになりたかった、と言っていた。感情がなければ今が辛くなくる、と言った淋しい人。大きな傷を抱え、身を丸めて必死に耐えている。
ここが大事、と胸を叩いた山野辺。昔から身体が先に動く野性児だけど、その素直さに憧れていた。
「会いたい」
圭に会って顔が見たかった。痣だらけの身体を抱きしめてやりたい。
どうして、と理由を考えるよりも先に走り出した。
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