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第12話

 薄らと汗の滲んだ額が冷気に触れ、冷静になれと促しているように感じた。だが頭は茹で上がってしまい、ただ圭の顔だけが浮かぶ。  明りが点いているか確認するだけ、と念を押し相馬家に訪れた。一階は暗かったが、二階の部屋は明りが灯っている。その部屋のカーテン越しに人影が揺れていた。  そこにいる、と分かるだけで胸が躍った。  秋人と一緒かもしれない。暴力を振るわれているのかもしれない。それでもその明りが希望のように潮見を照らした。  あまり長居していると不審者だと通報されてしまう。さっさと帰ろうと思うのに、足が縫い付けられたように動かない。  ぼんやりと部屋の明かりを眺めていたら、ふと電気が消えた。周りの闇が一層深くなる。  「帰るか」  同じ姿勢でいたせいか骨が固まったみたいだ。ロボットのように手足がぎこちなく動かしながら、もと来た道を戻る。  「どこに行くんだ!?」  数メートル進んだところで大声が聞こえた。  閑静な住宅街に似つかわしくない怒声。耳をすまし、辺りを見回してみると軽い足音が近づいてくる。  「しお!」  「圭?」  振り返ると走ってくる圭の姿があった。幻 覚をみているのだろうか。 圭はあの家に閉じ込められたままなのに。  「連れて行って。僕を、連れてって」  は、と見下ろすと圭の瞳には涙が滲んでいた。潮見のコートをぎゅっと掴み、身体は震えている。  「ケイ! 戻ってこい」  「お願い、しお」  圭の後ろから男が追いかけてくる。このままでは追いつかれてしまう。  考える暇もなく圭を小脇に抱えて走り出した。  遠くで男の咆哮が夜に呑み込まれていく。  振り返ったらそのまま引きずられてしまう恐怖と戦いながら、がむしゃらに走り続けた。

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