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第13話

 施錠して内鍵をかけると、漸く呼吸ができた。鯉のように口をぱくぱくさせて酸素を吸い込む。酸欠の頭は靄がかり、身体も軋んでいる。  抱えていた圭を玄関に下ろし、隣に倒れ込んだ。フローリングが冷たくて気持ちいい。  「しお大丈夫?」  心配そうに見下ろしている圭にどうにか頷いてみせる。酸素を吸い込むのに忙しく、声は出せそうにない。  全力疾走なんて数年ぶりで、筋肉を酷使したせいか全身が悲鳴をあげていた。関節を動かすたびに、ぎしぎしと嫌な音がする。  「ごめん、大変だったよね」  火照った頬にひんやりとした圭の手のひらが気持ちよかった。濡れた前髪を掻き上げられ、大きな瞳にみつめられると息切れとは違う胸騒ぎがある。  「運動不足だったからちょうどよかった」  「ありがとう。ごめんね」  圭の瞳から涙が音もなく流れてくる。まるで宝石のような涙が頬を伝い、尖った顎に溜まっていく。それを指で掬いとってやると、圭はゆっくりと顔をあげた。  「クララとゲラが死んだの」  「……残念だったな」  「だから僕があの家にいる理由がないなってふと思っちゃって。そしたら窓の外にしおがいて、全部が嫌になって飛び出したの」  圭の髪を撫でてやると首に抱きついてきた。  細く、小さい身体はどこまでも儚くて壊してしまいそうに脆い。慎重に背中に腕を回して自分の方へ引き寄せる。  「辛かった。ずっと辛かった。誰かにこの気持ちをわかって欲しかった」  泣きじゃくる圭の細い身体をさらに力強く抱きしめた。  「俺がおまえの力になってやる。おまえの傍にいる。だから今は気が済むまで泣け」  「しお、しお」  圭は繰り返し潮見の名前を呼び、その度に髪を梳く。今は思う存分、泣かせてやりたい。  潮見は小刻みに震える圭の肩をずっと抱いていた。

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