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第17話
空き缶やつまみの残骸を袋に放っていくと、すぐに満杯になり、また新しい袋に入れていく。空き缶は部屋を埋め尽くすほど重ねられ、山野辺のざる具合に驚いた。
山野辺は赤ら顔を緩ませて、「嫁さんが待ってるから」と片付けもせず帰ってしまった。引き留める間
もなく嵐のように去っていき、残ったのはごみの山だけ。
相変わらず大雑把というか。
圭は山野辺が帰ると、絵本を離し潮見に近づいた。
「もうあの人来ない?」
「来ない来ない。片付け手伝ってくれるか?」
「うん!」
圭は嬉しそうに空き缶を手に取り、袋に詰めていく。床に食べかすが落ちていたが、こんな深夜に掃除機をかける訳にはいかないので諦めた。
アルコールと煙草の匂いが不快指数を上げていき、窓を開ける。身を刺すような冷気は嫌な臭いを連れ出していく。
俺が酒も煙草もやらないんだから、少しは遠慮しとけよな。
「さっきあの人と話してたこと」
「ん?」
「しおは僕のこと好き?」
大きな瞳がまっすぐに潮見を見つめている。
いつにない真剣な面持ちはぐっと圭を大人びせた。長い睫毛が風に揺れる。
「それは」
「僕はしおのこと好きだよ。しおも好き?」
鼻先が触れそうな距離に顔を近づけられ、思わず一歩引いた。それでもなお近づいてくるので、潮見は部屋の隅に追い詰められてしまった。
「しおのこと」
「それは思い違いだ!」
空気を引き裂くような声に、二人して動きが固まった。
監禁されていたところを連れ出し、寝床と食事を提供し、外にも連れ出している。まるで親のように圭を大事にし、酷い目に遭ってきた圭に自由が与えられた。
その潮見への感謝を、「好き」と履き違えているのだ。そうではなかったら、いきなりこんなことを口に出すはずがない。
「そんなことない。僕は本当に」
「圭は勘違いしているだけなんだ。もっと物事が判別できるまで、そのことは忘れるべきだ」
心臓がどくどくと跳ね上がる。いま圭の気持ちを受けてしまったら自分が何をしでかすかわからなかった。
「……わかった」
悄然と肩を落としていたが、圭はそれ以上口を開かなかった。
圭の「好き」は親愛と同じだ。愛だの恋だのも知らずに閉じ込められ、ようやく自由を手にしたのだ。目に見るものが新鮮で、世界をどんどん取り込んでいく。
その一番近くにいる潮見に、親しみが生まれてくるのは仕方がない。親愛と「好き」の違いを圭はわかっていないだけなんだ。
何度も自分に言い聞かせ、部屋の掃除を再開した。
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