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ハハハ!ついに見つけたぞ 0.6

 奏は言葉にして心配するわけではないが、僕に大変同情的かつ協力的だ。  僕が動けていた時の食事は僕任せだったが、ご飯を炊いたり卵を焼いたり、ということは姉に教わっていたらしく、やってくれる。これでサラダや味噌汁といったような少し難易度の高い調理をしてくれると食卓がずいぶん豊かになるのだが、それ以上は習得する気がないようだーーそもそも野菜嫌いだしな。  姉が奏に僕を託して帰宅してから、一日一回は上州マートとコンビニで買ったお弁当かお総菜だ。いくらメニューが日替わりでも毎日同じような味付けなのでだんだん飽きてきた。家の料理だと週一でカレーが出ても三日続けて鍋でもそんなこと思わないのにな。  今さらだが、骨のために牛乳は毎日欠かさず飲んでいる。骨粗鬆症ではないようだが、治りがやや遅い。加齢のせいではあるのかもしれない。  一人でも色々用が足りるよう、リビングのソファベッドにタオルケットとクッションを敷き、姿勢を調節しながら御座所にしている。  最近、腰が痛くて仕方がない。足が治る頃には腰を痛めて立てなくなってしまっていたらどうしよう。退職したときに保険を解約しなきゃよかった。  このまま僕は施設に入る金もないままセーフティネットから外れまくりの要介護中年となり、社会的孤立一直線なんだろうか…… 独りで家に残され、悲劇的な将来しか頭に浮かんでこない。気分を変えようとテレビやネットもサーフィンするとやれ新年のパワースポットだの帰省ラッシュだのと……脳天気さがまたうっとうしい。  奏はいくつかの企業の研修会や職業体験に行ったが内定に繋がるようなものではなかった。  一社だけ、理系専門の派遣会社というところなあり、冬休みのバイトに誘われていたそうなのだが、僕の看病?介護?を理由に断ったというーー僕はそんな所があるんだと初めて知った。  はからずも奏の就活に水を差してしまい平謝りに謝ったが、本人はあっさりしたものだ。 「研究室のOBの人が飯奢ってくれて、誘ってくれたんだよね。『どこも決まんなかったらウチ来る?』みたいな感じ」 「そんなのんびりでいいのか?派遣と言っても専門職だろう?」 「いや。研究室で今いじっているCADの初歩とエクセルができればいいんだって」 「きゃど……?」 「ああ、設計とかデザインで使うソフト。図面引いて3Dに起こしたり」 「そうか。何か見た事あるかも」 「つっても『CAD』って名前のソフトがあるんじゃなくて、総称っていうか」 「総称……『名月赤城山』の赤城山はあっても『赤城山』という名前の山はない、みたいなもんか」  負うた甥に教えられ……じゃなくて今は僕が介助されてる側なんだけど。 「その例え、意味不明だけど多分そうだよ」 「それで大学とか研究施設に派遣されるのか?」  おそらく採用というより「派遣登録」という感じなんだろうが……僕も理系畑を少しかじってきた人間だから、少しでも大学で学んだ専門に近いところで働きたいという気持ちはわかる。 「運が良ければそういう所に長くいられるけど、大学なんか特に今厳しいから、工場の繁忙期に組み立てラインに入って繋ぐ時もあるんだって」 「正直な先輩だな」 「滑り止め」という訳ではないだろうが、奏は「いざとなったら行き先がないわけではない」という事に少しホッとしているようだ。  僕なんて「岡目八目」もいいところだが、それでもその時その時で職場の環境や人間関係が変わってくるというのは奏の特性上、負担が大き過ぎるように思う。  姉がそれよりは障害者雇用枠で、一般事務でも何でも正社員に採用が決まって欲しいと考えるのもわかるような気がする。  軽度という事もあり、奏は自身の障害に対する認識が薄い。というより人より頑張れば、定型の人達と同じ仕事に就いて同じ働き方ができると信じており、それをバネにしているような所もある。  確かにまだ若いから気力も体力も満ち満ちているだろうし、多数者の社会に馴染むために今している努力をーー例えば彼が大の苦手とする(僕もだが)、複数の仕事を同時進行するマルチタスクが要求された場合、自分なりに作業を細分化して進行表を作り、スマホのリマインダーやアラーム機能を駆使して一つ一つ順番にこなしていく。  今は若いからそれらを厭わず、絶えず労力を注ぎ込むのはそれほど苦に思えないのかもしれない。  だがそれは、果たして人生を通じて持続可能なのか?三十代や四十代になってそれなりに老化を感じた時、評価されて管理職になったり運良く出会いがあって家庭を持ち、さらなるマルチタスクを要求された時ーーそれまで積み重なった無理が祟って限界が来たりはしないのだろうかーー  老婆、いや老爺心にはちょっともどかしいが、本人が楽観的なのは救いだ。僕に気を使って明るく振る舞っているだけなのかもしれないが。

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