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ハハハ!ついに見つけたぞ 0.9
「唯人さんの葬儀やお墓は?」
「いいや。従兄弟の子 に葬式無しで散骨してくれって頼んだそうなんだ。できれば、分骨してもらいたかったんだけど……」
「してもらえなかったの?」
僕は曖昧に首を振った。
「まだ何も。親族と言っても消去法で、小さい頃に2、3回会っただけの人らしいから。なるべく負担をかけないようにそうしたのかもしれないけど……唯人さんは実家の方には一切カミングアウトしてないと思うんだ。今さら僕が出て行って、引っ掻き回すようになるのも……」
チギラさんも「そうか……」と言ったきり、考え込んでしまった。
もしかすると唯人さんが生きていた時、遺骨を引き取らせてくれと言えば、そういう風に遺言してくれたのかもしれない。
だが、その時は色々受け止めきれなくてとてもじゃないけどそんな事言えなかった。
ーーいや、『唯人さんの死』という受け入れ難い事実からただ、逃れたかっただけじゃないか。何のための年の功なのか。
「俺が口を挟むような事じゃないんだろうけどーー」
しばらくすると、チギラさんは顔を上げて思い切ったようにこう言った。
「唯人さん自身ももしかしたら、面識のあまりない遠縁の人よりは、長く暮らしていたスナオさんに弔って欲しいと考えてるんじゃないかな」
「僕もそうしたかったよ。でも、本番の朝に知って、入院して、今も身動きが取れなくてーーその間にもう、散骨されてしまったかもしれない」
生まれついての自分の要領の悪さと不器用さがよりによって人生の後半戦で、こんな形で意趣返しをしてくるなんて。情け無くて涙が滲んだ。
「まだ間に合うかもしれない」
チギラさんはそんな情け無い僕の手を握って言った。
「葬儀から納骨までキリスト教なら30日、仏教なら49日。それに合わせてそのはとこだか遠縁の人がまだ、自宅で祀るなり保管するなりしているかもしれない。しかも年末年始を挟んでいるし」
「そうか……そうだよね」
チギラさんにそう言われると急に、気持ちが明るくなった。無能だけど無力じゃないーーそんな前向きな気持ちで自分が信じられる。
「亡くなった人を弔うというのは、遺された人がちゃんと生きていくためでもあると俺は思う」
チギラさんの言葉に、胸が震えて涙が溢れそうになりながら何度も頷いた。
「親戚の人の連絡先はわかる?」
「うん。たしかレコードの送り先に……わかってくれて納得してくれるといいんだけど。わあ。緊張してきた。どうしよう。何からしたらいいかな?」
高テンションでオロオロ、オタオタする僕の手をチギラさんはもう一度握り、
「まずはスマホを充電しようか」
と、笑って言った。
「その間に、腹ごしらえしよう」
火にかけた鍋からことことという心地よい音がし、芳しい匂いが漂う。
チギラさんはおでこをコツンとくっつけるとイタズラっぽく笑った。
「半年越しのボルシチ。楽しみにしてて」
空腹を満たすために機械的に摂るのではない食事の幸福感を久しぶりに思い出した。
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