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嫁入り?②

「ねぇ透夜」 「ん?」 「その、ずっと言い出せなかったんだけど……」 「なに」 「僕、変なんだよね。初めて透夜と話した時から、なんかお腹の辺りがキュウっとして、苦しいっていうか、切ない? っていうか」 「あ? 風邪引いたんじゃねぇの」 「そ、ゆーんじゃなくてっ! だからね!? えーとえーと、つまりその─……」  しばし言い澱んたかと思えば、暁はいきなり草の上に土下座して、わっと顔を上げた。 「あのそのっ、僕のっ、僕のお嫁さんになって下さいいッッ!!」 「は、──」  カァ、カァー……とカラスが飛んでいった。 「……。いや無理だろ」 「えっなんで!?」 「なんでっておまえ、……」  暁は物凄く目を丸くしていた。まさか断られると思っていなかった。そう言いたげな顔だ。  金持ちだから無条件で受け入れられるだろうとか、そういう発想だったのだろうか? (全く地主の息子といいこいつといい、金持ちの息子ってのは……) 「じゃなくてッ!! 」  目眩がしてきた透夜だが、咳払いをして続けた。 「いいか? あき。 おまえと、俺な?」  人差し指で交互に指をさす。 「うん」 「……性別。」 「え、……あ”──っ!!」  暁は頭を抱えて大きくのけ反った。 「……」 「……」 「っ、いやでも、」 「まだなんかいう気力あんのか」 「やってやれないことはない! 諦めたらそこで終わりだっ!」 「……頭に草、ついてんぞ」  はーっとため息をつきつつ薄茶の髪にのる枯葉に手を伸ばした。  その手首を、ぐっとつかまれた。  思いがけない強い力に透夜はビクッと戦慄いた。 「あき……?」 「絶対に迎えに来るから、待ってて」  一瞬、何を言われたのかよく分からなかった。  透夜が何か答える間もなく、やがて名残り惜しそうに手を離した暁はにわかに立ち上がった。  ──いや、ちょっと待て。  思いが声にならなかった。  あの緑色の眼差しで真剣な告白をされたら、もはや断れるはずがない。  それにしてもとんでもない。  こちらの気持ちはまるで無視して、一方的に迎えに来ると言われた。透夜の答えなど知ったことかということだ。こちらの意志がどうであれ、欲しいからただ迎えに来ると。そう言われたのだ。 「……なにそれ、すんげー自信」 「えっ?」  物凄いことを言ったわりには憎らしいほど無邪気な顔が振り返る。  透夜は俄然、可笑しくなってきた。 「あは、あーはっはははははスゲーなおまえ! あははははははは腹痛えー」 「な、僕は真剣にっ!」 「わかってる、だからスゲーっつってんだよ」 「えっ」 「あき」 「へっ?」 「好きだぜ」 「へっ……」 「じゃーな、メシごちそーさん」  カランと湯呑みを置いて、膝を払った。持ち場に向かい歩き始める。 「えっいや待って? 今のどういう意味、ちょ、待ってよ透夜ァァ!」 …………………… …………  などということがあってから、二人の距離は急速に縮まっていった。  その一方で、仕事の合間に稽古を受けていた弓の師範が、にわかに透夜を直弟子として貰い受けたいと主家に願い出た。  透夜が羽山の家来について半年が過ぎた頃だった。

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