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強弓、天を貫く①

 羽山の城は籠城には向かぬ。そのぶん守りの兵力は強い。落としたければ(おとり)を使い、兵力を割いて城の守りを手薄にする。それから──、  そこまで思い至ったとき、透夜の顔からさあっと血の気が引いた。 「まさか……」 「透夜」  すっと指をしめす暁につられ、外を向いた。 「あれって、なんだろう……?」 「え、──」  地平線に砂埃が立ちのぼっている。  その狭間に見え隠れするのは、多くが歩兵。ところどころには騎馬も見える。 「……武蔵野の……千鳥ヶ淵の、山窪の……」 「違う」  今様(いまよう)のように歌う暁を透夜が制した。 「あれは千鳥ヶ淵の連中なんかじゃねえぜ。よぅく見ろよ、あのマヌケな唐獅子模様を。長年俺らとやりまくってきた、お馴染みのあいつらじゃねえか!」  今になってようやく読めた。  羽山と敵対する近隣勢力が遠く千鳥ヶ淵の連中と手を組み、その連中を囮にして城の守りを二分したのだと。 「透夜、みんなっ!」 「おお!」  堀の無い羽山城は籠城には向かない。  垣根には敵の足を押さえる為の仕掛けが施されているが、みな時間稼ぎに過ぎなかった。  ゆえに討って出るほか策はない。 「敵の数は多くはない。兄さま方が戻るまで、何としてでも城を守るぞ!」 「御意っ!」  城主の名代たる暁は、本来ならばぎりぎりまで城に身を隠すべきだ。だが味方が手薄の今は状況が異なる。  透夜と暁は開門するなり馬に飛び乗り、騎馬隊と共に敵陣に突っ込んだ。  訓練されたこちらの兵に対し、敵は寄せ集めに過ぎない。武器とて、鋤や鎌、あるいは細い丸太という極めて丸腰に近い者も多かった。  勝機は充分にある。  二人は馬上で弓引き、絶えず敵兵に矢を射かけた。 「ギャアアッ!」  ぶつ、ぶつり、矢が肉を貫く音は何度聞いても忌まわしい。 「……にしても」  城主はあくまで神輿だというのに、勇敢過ぎる主人には透夜もみなも驚き呆れた。 「オイあきっ! おまえはも少し下がってろ、ムダ死にしてえのか!」  背後から叫べど振り向きもしない。 「無視かよ、クッソあのじゃじゃ馬ッ!」  開戦から約一刻の間、二人は左右から群がる敵に縦横無尽に矢を討ち続けた。  透夜の弓はもちろん、暁の弓もなかなかに強い。そのうえ正確だ。狙った獲物は必ず仕留める実直さは暁そのもので、呆れつつも見惚れてしまう。 「……戦が終わったら今度こそ抱き潰してやる……」  閨という意味では、透夜は暁に今まで何度か誘いをかけてきた。しかしその度にのらりくらりと逃げられている。

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