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強弓、天を貫く②

「……って聞いてんのかじゃじゃ馬ァ!」  馬にまたがるケツが可愛い。 「──ぃゃ状況考えろォ!!」  自身にツッコミを入れつつ矢筒を替えた。 「透夜」 「なんだっ!」 「うるさい」 「ハア!?」 「あと僕抱かれてもいいけど、一発やってポイとかはヤだから」 「……な、ことするわけ、」 「なんで今ちょっと間が空いたの」 「いや違くて、」  ただビックリして、というかそんな風に思ってたのかよ酷過ぎるでしょ!  戦場で睦言を返そうとした時、大きな石がゴウと唸りをあげて飛来した。 「わっ!」  暁が身を翻す。しかし乗っていた馬はビヒヒーンといななき前脚を高く持ち上げた。 「あきっ!!」  いきおい馬から振り落とされた暁が大地に転がる。 「クソッ」  落ちれば歩兵に囲まれる。自身も素早く下馬した透夜は、続いて降りた味方とともに暁を守った。 「いい、透夜は馬に戻って!」 「暁がそうしたらな」  取り囲む敵は十余り。この場の味方は透夜を入れて三人。  分は悪いが個の力はこちらが有利なはず。  だが予想は外れ、接近戦での剣が立つ者が二、三まぎれていた。  透夜は弓で、暁は剣で応戦するも、気が付いた時には他の味方はみな倒されていた。 「ははぁ、おめえが羽山の次男坊だなぁ? うちのカシラがいたくおめえにご執心でよぉ。なるほどなるほどォ、確かにこいつぁただ殺しちゃあつまらねぇなぁ。生捕りにしてやるからこっち来な、かわいこちゃん」  赤猿のような下衆がゲラゲラ笑いながら手招きをする。 「……ふざけ、」 「ざけんなァっ!」 「へ、」  せっかくカッコよく助けようと弓を構えた透夜だったが、激昂した暁は自ら刀身を抜いて駆け出してしまった。 「ぬあああッ!」  暁は助走をつけて高く舞い上がり、白刃を天から地へと一閃した。  鈍い音とともに赤猿の胸がざっくりと裂け、血飛沫をあげながらどうと崩れる。 「はっ、だーれがかわいこちゃんだよ。ざまーみろっ」 「……すっげ……」  昔みせたあの泣きベソは幻だったのかと疑った。齢16を迎えた暁は、その華奢な見た目に反する剣豪として名を馳せていた。  透夜はただただ呆気に取られた。  三年前の太刀筋も見事だったが、今日のそれはあの時のものとは比べ物にならぬほどに美しく、そして峻烈だった。  正直ほれ直した。  「ふうー……」  だが気丈に振る舞う暁の肩は上下している。疲れは相当に溜まっているだろう。限界は近いはずだ。  そして透夜自身にも、それは言えた。 「──ぁ、まず……」  透夜は胸を押さえた。  本当は馬上で矢を射ている時から少しずつ感じ始めていた違和感。時と疲労が重なるにつれ、それは少しずつ少しずつ透夜の心臓を蝕んでいった。  本来ならば、もうとっくに倒れていてもおかしくなかった。戦場という異様な熱気に助けられ、何とかここまで持った。そんなところだった。 「っは、……ぁ、は、カハッ! はぁ、っは……」  ぽたり、……ぽた……。 「透夜っ!?」  暁の絶叫で、ハッと己を省みた。 「あ、……」  激しく咳き込んだせいだろうか、それとも別の病か。口を押さえた掌からこぼれ落ちたのは鮮やかな血潮だった。

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