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「――では、お前さんはこの俺と夫婦になるのが嫌なわけではないのだな?」
「嫌だなんて……! とんでもございません。こんな一般市民の僕に……そのようにお心を砕いてくださるお気持ちは本当に有り難くてなりません。ですが僕の為に皇帝様の未来ある人生を取り上げてしまうことなどできません!」
カタカタとか細い身体を震わせながらうつむいては、ギュッと拳を握り締める。その様から察するに、ここで客を取って生きていくことになろう己の運命を喜ばしくは思っていないことだけは分かる。だからといって他人の人生を捻じ曲げてまでそれから逃れていいとも思ってはいないということだ。
焔 はますます何としてでもこの哀れな少年を救い出してやりたい――そう思ってやまなかった。
「ふむ、だったら俺を好きになってみる――というのはどうだ?」
「は――?」
「確かに偽の婚姻では味気ない。だから俺はお前さんを好きになる。お前さんは俺を好きになる。互いに本当の恋をすればいいのだ」
焔 の意外過ぎる言葉に、冰はポカンとした表情で固まってしまった。大きな瞳をパチクリとさせたまま、唖然としたように言葉を失っている。
「やはり――そう上手くは問屋が卸さんか」
焔 が少々ガックリと肩を落としながら溜め息をついていると、冰は慌てたようにハッと瞳を見開いてはブンブンと勢いよく首を横に振った。何回も何回もちぎれんばかりに振った。
「ボウズ? ――どうした?」
「あの、皇帝様……。お、お慕い申し上げても……よろしいのですか? でしたら僕、あの……。でも……」
みるみると頬を朱に染め上げながら、恥ずかしさの為か冰はうつむいてしまった。視線は挙動不審というくらいに泳ぎ、まるで穴があったら入りたい、隠れたいというように身を縮めている。そんな様からは決してこの少年に嫌われているというわけではないのだろうと察せられ、焔 は思わず瞳を細めてしまった。
「俺が嫌ではないのだな?」
「嫌だなんて……! 滅相もございません! こ、皇帝様はその、男の僕から見てもすごく格好良いです。とても……素敵で憧れます」
「――そうか。では少なからず好意的に思ってもらえるということだな?」
「……はい、もちろんです!」
ますます熟れた林檎のように紅潮させた頬の色からして、お世辞でそう言っているのではないことが窺える。
「だったらこの俺に嫁いで来い。互いに恋をして共に暮らせば良いのだ」
「はあ……あの、ですが……」
「俺の人生を狂わせるだの巻き込むだのといった考えは無用だ」
「……え、はあ……」
冰は有り難いとも嬉しいともつかない困惑した表情でうつむいていたが、ふと思い切ったように顔を上げると、しっかりと視線を合わせながらこう訊いてきた。
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