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「けど、さすが雪吹(ふぶき)だよなぁ。あいつン()の親父さんは有名なディーラーだろ? 交友関係も俺たちとは(はな)から別格っていうかさ。実際、こうしてお兄さんのような人が訪ねてくるくらいだもん、やっぱ格の違いだよね」  学生らから見れば遼二もまた、この地下遊興街にて高い地位にあるような風貌に思えるのだろう。そんな大人たちがわざわざ訪ねて来る雪吹(ふぶき)は見どころのあるヤツだと思っているようだ。まだ一部の意見しか聞いていないので何とも言えないが、学生間で冰がやっかまれている様子も見受けられない。  それはともかく、彼らの一人から思わぬ言葉が飛び出して、遼二はハタと瞳を見開かされる羽目となった。 「そういやさぁ、ついこの前もウチのリリーがあいつを訪ねて来てたのを見掛けたっけなぁ」  どうやらその少年の親は高級クラブを経営しているオーナーのようだ。 「リリーというと?」  遼二は逸る思いを抑えてそう訊いた。 「うん、ウチの親がやってる店、クラブ・ルーシュっていうんだけど。リリーはナンバーワンって言われてるくらいの稼ぎ頭の女なんだよ」  ルーシュといえばこの地下街でも名のある店だ。遼二自身、訪れたことはないものの、店の名前は耳にしている。つまり高級クラブのホステスだ。 「そのリリーが冰君を訪ねて来たってのか?」 「うん、そう。一週間くらい前だったかな。ちょうど校門を出たトコで見掛けたんだよ。こんな真っ昼間っからリリーのヤツが出歩いてるなんて珍しいこともあるもんだって思ったけどさ」  だが、冰は伝説と云われるくらいに名の知れたディーラーの息子だ。高級ホステスとも顔見知りなのかと、特には違和感を抱かなかったそうだ。 「それで――そのリリーの用事は何だったのか分かるかい?」 「さあ……そこまでは。リリーと雪吹が話してるのをチラッと見掛けただけだし」  おおかたカジノへ連れて行く客のことででも相談しに来たのだろうと、その程度にしか思わなかったそうだ。 「リリーのようなホステスがキミら学生さんを訪ねて来る――なんてことは珍しいことじゃねえのか?」 「うん、別に。よくあることだよ。俺らの親って大概はクラブやバー、ホテルとかで働いてるからさ。中には従業員じゃなくて各店の経営者もいるし。たまに言伝(ことづて)で俺ら子供に会いに来るホステスもいるよ。親は昼間寝てるからさ。起こさないようにってガキの俺たちが伝言を頼まれるのは珍しいことじゃないよ」  つまり夜の商売の為に昼間は休んでいる親に代わって、その子供たちに伝言を頼むということだそうだ。 「例えばだけど……今晩、誰々っていうお偉いさんのお客を連れて行くから席をリザーブしといてくれとかさ、指名したいホステスの予定を空けておいてくれってのも多いね。あとは……出して欲しい料理のこととかいろいろ。仲立ちしてやればちょっとした小遣いももらえるしさ、親からも助かるって褒めてもらえるしで一石二鳥さ!」  なるほど――そういうことが日常茶飯事に行われているというわけか。巨大遊興街ならではの事情だろう。リリーという高級クラブのホステスが冰を訪ねて来たところで、彼らにとっては珍しい光景ではないというわけか。  とにかく――だ。そのリリーが何かしらの事情を知っている可能性もある。遼二は早速にそのクラブへと様子伺いに出掛ける必要があると踏んだ。

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