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愛情とひとくちに言っても、それが即恋情に繋がるというわけではなかったものの、例えば肉親としてずっと共に暮らしたい、彼の笑顔を見ることが日々の糧に思える――というふうに気持ちが育っていったのは間違いない。今では淡い恋情すら覚えるようになっていることは、焔 自身にとっても新鮮且つ不思議な感情ともいえた。
ゆえに何かにつけて彼に触れたい、温もりを感じたいと思うのはごく自然のなりゆきだったといえる。しかもそうした際に見る彼の反応もまた、初々しくて可愛くて仕方がない。もしも恋をしたなら誰もがこういう気持ちになるのだろうと思えるほどだった。
本当ならばこのままもっと熱い気持ちをぶつけて、完全に自分のものにしてしまいたいところだが、このウブ過ぎる少年には少々酷ともいえるだろうか。それ以前にもうしばらくは激情を抑えておくのも醍醐味といえる。
身も心も重ね合い、すべてを手に入れるのも正解かも知れない。だが、ゆっくりと気持ちを解し合いながら、もっともっと互いを必要とし、決して離れられなくなるまでプラトニックでいるのも別の意味で幸せと思えるからだ。
いつの日か、この愛しき少年がもう少し大人になったら、自然とふたつがひとつになれる時が来るだろう。それまではこの純粋でいて心の底から湧き出る温かい思いを育むのも幸せと思えるのだ。
「ん――」
それじゃゆっくり休めな――と髪を撫で、焔 は上機嫌の様子で部屋を後にしていった。
取り残された冰は両の手で熱い頬を押さえながら、夢か幻かとしどろもどろだ。
「お兄……じゃなかった、焔 さん……。焔 ……さん」
その名をひと言――口にするだけで幾度でも頬が染まる。ウブな少年はなかなか寝付けずに染まった頬を枕に擦り付けては高鳴る胸を押さえるのだった。
◇ ◇ ◇
それから一週間が経った頃、風の噂で白蘭 という女がクラブを辞めさせられ、ワインバーも畳んで地下街を追われたという話が舞い込んできた。
リリーが白蘭 に騙されて信頼を失ったという話は、ホステスらによって瞬く間に遊興街に広がったそうだ。当然、ルーシュのオーナーも黙っているはずのなく、白蘭 の在籍していたジュエルのオーナーは責任を取って彼女をクビにしたそうだ。白蘭 が皇帝周焔 の邸に住む少年を邪魔にしようとしたことで、事態を重く見た各クラブのオーナーたちは、彼女をこの街から追放する決定を下したのである。まさに李 の読み通りになったということだ。
焔 は結果的に白蘭 という女とは顔を合わせることのないまま事態は収まった。だが、まさかこの後に今回のことがきっかけで更なる難儀が降り掛かろうとは、この時の焔 にも、そして遼二以下誰にとって知る由もないことといえた。
とにかくも、しばしの平穏が戻った地下街にて焔 と冰は仲睦まじい本当の兄弟のようにして幸せな日々を送ることとなる。いずれ訪れるだろう嵐の時も、二人が互いを思いやって過ごせば、きっと乗り越えられる――そんな絆が日一日と深く強く、互いを結びつけんことを祈りながら今日もまた新しい朝を同じ邸で迎える焔 と冰であった。
第二章 - FIN -
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※ここまでお付き合いくださいまして誠にありがとうございます。
この後、第三章へ続きますが、その前に別の話の更新を挟みますので、再開はそちらの完結後を予定しています。詳しくは個人ブログにてご案内しております。
更新をお気に掛けてくださっている方々にはお待たせしてしまい、たいへん恐縮ですが、また再開のおりにはお立ち寄りいただけますと幸甚です。何卒よろしくお願い申し上げます。一園拝
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