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「冰 ……」
なんて可愛いことを聞かせてくれるのだ――! 焔 にとってはこれ以上ないほど嬉しい言葉に他ならない。迷惑になることが辛い、心苦しい、というのも健気だが、少しのヤキモチを思わせるような”お嫁さん”のくだりには、思わず破顔し、声がうわずってしまうほど嬉しくて堪らなかった。
「冰 、何度も言うが俺はお前が側にいてくれることこそが何よりなのだ。お前以上に大切と思える女性などもいやしねえ。それに――お前の為ならどんな危険があろうとそんなことは取るに足らないことだ。お前に降り掛かる暗雲があれば全力で振り払ってやる! この命に代えても守り通す! だから安心して俺の側にいて欲しい。ずっと――末永くお前と黄 の爺さんと共に暮らしたいのだ」
「焔 さん……」
「勝手なことを云 っていると思う。だが俺は本気だ。お前と共に人生を歩みたい。お前さえ良ければ――生涯側にいて、俺の伴侶として共に生きてはくれまいか」
伴侶として共に生きてはくれまいか――それはいわゆるプロポーズと受け取れる言葉だ。冰 はまだ少年ながらもさすがに云 われている意味を察したようだった。
「イ、焔 さん、ありがとうございます。僕には……信じられないくらい嬉しいお言葉です。あの……ぼ、僕などでよろしいのでしたら、お側に置いていただけるのであれば……身に余る光栄でございます」
言葉通りカタカタと身を震わせながらも頬を真っ赤に染めて一生懸命にそう応えてくれた。
「冰 ――良いのだな?」
「はい」
消え入るような小さな声ではあるが、それも緊張と信じ難い気持ちの裏返しなのだろう。それを証拠に、もちろんです! という言葉に代えてコクコクと大袈裟なくらい懸命にうなずいてくれる姿が、彼もまた同じように自分を想ってくれているのだということが聞かずとも分かる。
「そうか。そうか――! こんなに嬉しいことはないぞ!」
ありがとう、ありがとう! と、苦しいくらいに抱き締められる。
「あの……焔 さんこそ……僕などで本当によろしいのです……か?」
「もちろんだ! 実を言うとな、お前さんから振られたらと思うと――なかなか言い出せずにいたのだ。肝っ玉の小せえこんな俺だが――」
「焔 さん……そんな。僕の方こそ――いつか焔 さんがお嫁さんを娶 られるれる日が来たらって考えたら……」
胸がキュッと痛んでドキドキして、だから一日も早くちゃんと仕事をこなせる大人になって、一人立ちして――もしもそんな日が訪れた時は心から『おめでとうございます』と言えるような人間にならなければと思っていました。
うつむきながらも涙を溜めてそんなふうに言った冰 に、焔 はもう理性を抑えることができなくなってしまった。
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