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数日後、地下街病棟――。
春日野 医師と鄧 一家の尽力によって手術は成功し、ロナルドは何とか命を繋ぎ止めることが叶った。
救急病棟から一般病室へと移ることもできて、彼は自分が未だ生きていることに複雑な心境でいるようだった。遼二 と李 を伴って見舞いに参じてくれた焔 の姿を目にしたと同時に、まるで自分は恩人の役に立つことすらできなかったのかというように自責の念に苦しむ表情を見せた。
「周 ……老板 ……」
「――具合はどうだ。手術は成功したそうだ。もう心配はいらん」
案じる表情を見せた焔 に、ロナルドはますますもって申し訳ないというふうに顔色を翳らせた。
「……ご迷惑をお掛けして……詫びの言葉もございません。手前なんぞの為に病院の先生方にもお手を煩わせてしまって……」
「命を粗末にするものではない。無事で良かった」
「周 ……老板 」
焔 のあたたかいひと言に、ロナルドは堪え切れなくなった涙を滲ませては身を震わせた。
「病み上がりのところすまんが――経緯を話してはくれんか。なぜお前さんがあの女に刺されるような事態となったのか――」
「は……」
ロナルドにとってはもはやこの焔 に隠すことは何も残ってはいない。こうなったら経緯を洗いざらい打ち明けることで、せめてもの贖罪になるのならと思ったようだった。
「あの後――手前が周老板 に不問にしていただいた直後ですが。お言葉通り、手前は依頼を遂行してターゲットの少年を始末したと女に告げました。女は手前の言葉を信じて、とにかくは納得したようでした。手前が少年を殺 り損ねて老板 に捕らわれたことも話していません。女とはそれきりになるはずでした」
ところが、どこから聞きつけたのか、焔 と冰 が婚姻を交わすという話を知った女が性懲りも無く再び良からぬことを企てているという噂を耳にすることになったのだそうだ。
「あれ以来、手前は女とは会っていませんでしたが、あの女がまたしてもとんでもねえことをしでかそうとしていることを手前の仲間内からの情報で知りました」
「仲間内というと――あの女がまた別の殺し屋を雇ってボウズの始末を依頼したということか?」
「いえ、そうではありません。手前が聞いたのはもっと手に負えないことでした」
ロナルド曰く、女が別の殺し屋を雇った程度ならいくらでも防ぎようがあったという。殺し屋仲間にターゲットの少年が周一族の身内だと知らせればいいだけだからだ。この香港裏社会を敵に回してまで素人の女の依頼を請け負う者などいようはずもない。
「ですが、あの女の企みはもっととんでもねえことだったんです。ヤツはこの九龍城砦地下街を阿片 漬けにしてぶっ壊そうと企んでいたんです」
「九龍城砦地下街 をぶっ壊すだと――?」
これには焔 ならず、遼二 や李 も思わず目を剥いてしまった。
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