「――もしかしてアレか？　昨夜の三日夜(みかよ)の餅？」 「おお！　そんじゃ冰(ひょう)君、上手くやれたってことかな」 　ワクワクと瞳を輝かせる二人を横目に、焔(イェン)は更なる真っ赤に染まった頬のまま、テーブルの下でプルプルと拳を震わせた。 「やはりおめえらが吹き込んだのだな？　冰(ひょう)が――あいつがいきなりあんなことしようとするから……俺はえらく驚かされたのだぞ！」 　プルプルと震えながらも相変わらずに顔は茹蛸さながら。怒っているというよりも照れてそうなっているのが丸分かりだ。 「あんなこと――？　ああ、例のレクチャーか！」 「じゃあ教えた通り上手くできたんだな、冰(ひょう)君！」 　相変わらずに暢気な二人に怒る気も失せる。 「で？　どうだった？　嬉しかっただろうが？」 　遼二(りょうじ)が興味津々で顔を覗き込んでくる。その頭を懐から取り出した扇子で軽くパコーンと叩きながら、焔(イェン)はムスーッと鼻息を荒くした。 「嬉しかった――だ？」 「……？　嬉しくなかったのか？」 「いや――ま、まあ……嬉しくねえとは……言わんが――。ってよりもだな！　あんなことを教えるヤツがあるか！　冰(ひょう)は生娘(きむすめ)……じゃなかった、生息子(きむすこ)なのだぞ。床(とこ)に入るなりあんな……」 　冰(ひょう)が自らあんな行為を思いつくはずもない。おめえらが吹き込んだんだろうと焔(イェン)はお冠(かんむり)だ。 「おかしいと思って問いただしたところ、おめえらに″ご教示″いただきましたって言うじゃねえか……。なんだってまたそんな――」 　余計な節介を――と言わんばかりの焔(イェン)に、 「あー、皇帝様……やっぱちょっと刺激強かった？」 　紫月(ズィユエ)の方は「あちゃー」と額を覆っては冷や汗を拭うような仕草でいる。遼二(りょうじ)もまた然りだが、こちらは開き直ったものだ。 「ンなこと言ったっておめえ。冰(ひょう)が教えて欲しいって言うから……」 　俺らは協力したまでだよ。なあ？　と、二人でうなずき合う。 「――冰(ひょう)が教えて欲しいと言っただと？」 「そ、その通りだ。俺だってなぁ、何をどう教えりゃいいかってちっとは悩んだんだぜ？　おめえとは長え付き合いだが、さすがに”性感帯”がどこだとか、何されたら嬉しいとか、そこまでマニアックなことを知る仲でもねえだろが。だから野郎なら誰でも喜びそうなことを素直に……こうレクチャーしたまでなんだが――」 「そうそう。冰(ひょう)君ったらどうすれば皇帝様に喜んでいただけるか、失礼にならないかーってすげえ真剣でさ。可愛いったらなかったよな？」 　可愛いかったという紫月(ズィユエ)のフォローが功を奏したのか、 「……冰(ひょう)が？　そんなことを？」 　焔(イェン)はわずかに瞳をパチクリ。 「うん、そう。皇帝様から三日夜(みかよ)の餅をいただいたんだけど、僕は初夜に何をどうすればいいのでしょうかって。んもう、今時あんな純朴で一途な子も珍しいべ！」 「……ふむ、そうだったのか。冰(ひょう)が――そんなことをな」 　その可愛らしい姿を想像したら、途端に口元がゆるんでしまいそうだ。 　まあ、それはともかく――だ。 「純朴なあいつに下世話なテクニックなんぞ吹き込んでくれたことには……ひと言文句を言わにゃならん。だいたい――！　あんなことはこれから折を見てこの俺がだな……」 　追々自分の手で少しずつ教え込んでいくつもりでいたのに――と言いたげに未だプンスカと鼻息を荒げている焔(イェン)に、 「まあまあ、いいじゃねえか。それよか冰(ひょう)も呼んで一緒に飲茶でもどうだ」 　ニヤニヤとしながら遼二(りょうじ)が茶を注ぎ足してよこす。 「あ、じゃあ俺呼んで来ようか？」 　気を利かせた紫月(ズィユエ)が立ち上がろうとした時だった。タイミングよくか、当の冰(ひょう)がひょっこりと顔を見せた。