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「冰 ――!」
「焔 さん。鐘崎 の兄様、紫月 兄様も! お邪魔いたします。あの、真田 さんがこれを兄様たちにと」
手にしていた重箱を開ければ、そこには焼き立てのパンケーキが詰められていて、甘い物好きの紫月 は思わず感嘆の声を上げてしまった。
「うわーお! めっちゃ美味そう!」
「はい、きっと紫月 兄様がいらしてるはずだからと真田 さんが」
焔 が遼二 邸に向かった直後に真田 が用意してくれたそうだ。きっと真田 には結婚式の翌日だから遼二 らも休みでゆっくりとしていて、紫月 が遊びに来ているだろうことも察していたのかも知れない。さすがは年の功か。
焔 は突然の冰 のお出ましに嬉しそうでいて、つい今し方までの憎まれ口もすっかりとなりを潜めたわけか、ご機嫌そのものだ。ついでといってはナンだが、この際ちょっと仕返しでもしてやろうと思いついたようだ。
「ところで――カネ!」
突如姿勢を正して、手にしていた扇子でピシッとテーブルを叩いて気合いの入った態度を見せる。
「あ?」
遼二 はキョトンとし、紫月 も然りだ。
「ウ、ウォッホン! 紫月 もだ。二人とも、他人 の世話も結構なことだが、てめえらもそろそろ身を固めてはどうだ?」
互いに好きなヤツはいねえのか? と、反撃開始だ。
「身を固めるったって……なぁ。俺ァまだそういう相手も……」
急にモジモジとし出した遼二 に、
「どうだ。この際、てめえら二人一緒になったらいいんじゃねえか?」
遼二 と紫月 を交互に見やりながら人の悪い笑みを浮かべてみせる。
「や……焔 、ちょい待ち……俺ァ……」
「なんだ。てめえらなら似合いだと思うがな」
未だ紫月 に告白すらできないでいる遼二 はアタフタと大慌てで視線を泳がせている。
――と、そこで″純朴は罪″を地でいく冰 がひと言ポツリ――。
「鐘崎 の兄様と紫月 兄様ならとてもお似合いだと思います」
ニコニコと天真爛漫な笑顔でパンケーキを切り分けている様は、まさに罪か――。
「あ……そう?」
遼二 はもう挙動不審というくらいに口をパクパクさせながらも、その頬を真っ赤に染めている。そんな様子に紫月 の方も満更ではないのか、照れたように視線を泳がせる。慌てる二人を目の前にして焔 はご機嫌そのものだ。
(うむ、冰 。よく言った!)
焔 は心の中でそう叫びながらも、これで昨夜の仕返しができたとばかりに溜飲を下げたようだ。ニヤニヤとしながらも二人の慌てる様子をお茶請 けに、ご満悦のティータイムを楽しんだ、そんな午後のひと時だった。
それはともかく、昨夜の初夜に焔 が愛する冰 からどんなことをしてもらったのか――それは新婚夫夫 二人の秘密である。
式明けて翌日の初々しい二人 - おしまい -
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