「おい……冰(ひょう)……」 「すみません、初めてのことゆえ至らぬこととは思いますが、心を込めてさせていただきます」 　至らない部分はどうか多めに見てやってください――と言わんばかりの勢いで、開かれた両脚の真ん中に頭を突っ込まれ、驚く暇もなく雄を舌先で舐められて、ガラにもなくビクリと太腿を揺らしてしまった。 「……ッ、冰(ひょう)……何を……」 　そう言い掛けた時にはすっぽりと自らの雄(おす)が彼の可愛らしい唇に咥え込まれて、小さな赤い舌先がチロチロと鈴口を撫でる感覚に、抑えていた欲情が爆発するべく全身に快楽の波が走った。太腿はビクビクと震え、背筋には雷が通り抜けたような衝撃を伴った快感が立て続けに何本も――というようにゾクゾクと這い上がる。 「……クッ、ひ……冰(ひょう)……」 　思わず大きな両の掌で彼の黒髪を掻き乱し、逆らい切れない快楽の波に天井を仰ぎ見た。 「待……てッ、……待つんだ冰(ひょう)……ッ」 　ようやくのことで彼を雄(おす)から引き離し、焔(イェン)は荒くなった吐息を封じ込めるように大きく息をつきながら、自らの股間に埋もれている色白の頬を掌で包み込んだ。 　ところが冰(ひょう)の方は自分の奉仕の仕方が至らなかったと思ったのだろう。 「……すみません、焔(イェン)さん……。やはり上手にできていませんでしたか……？　あまり気持ちの良くはなっていただけないでしょうか」 　今にも泣き出しそうな顔つきで大真面目にそんなことを言ってよこす。焔(イェン)にしてみればそれが上手い下手などという以前の問題なわけだが、あまりに申し訳なさげな表情をされるので、今度は焔(イェン)の方が申し訳ない心持ちに陥ってしまった。きっと慣れない行為を彼なりに一生懸命しようとしてくれているのだろう。それが痛いくらい伝わってきて、その先の言葉が出なくなってしまう。 「冰(ひょう)、あのな……」 　夫(めおと)婦になったとはいえ、こんなことをせずとも良いのだぞ。二人で愛しい気持ちのままに肌を重ね、自然と結ばれていけばそれで良いのだ。 　そう言ってやりたかったものの、一生懸命な彼の思いを無碍にすることも憚(はばか)られ、ここでむやみにやめさせればかえって彼を傷つけることにもなりかねない。しかも、全身に電流が走るくらい気持ち良くてゾクゾクと快感に包まれたのは事実だ。焔(イェン)は両の掌に包んでいた彼の顔を、今度は自ら己の股間へと押し付けた。 「いや――あまりに良過ぎてな……。情けねえ話だが、てめえを失いそうになった――」 　つい心のままが口をついて出てしまったのだが、冰(ひょう)は安心したのかホッと胸を撫で下ろしたように大きく肩で息をつく。 「良かった……。本当に……あまり上手くできなくて恐縮ですが、心を込めて愛させてください」 　それだけで昇天させられそうな可愛らしいひと言と共に、再び赤い舌先で雄(おす)を舐め始めた。 「……ッ、クッ……」 　また背筋から脳天まで一直線に這い上がる快楽の波が襲いくる。焔(イェン)は突き上げる射精感を幾度も堪えながら、低く湿った嬌声を抑えることができなかった。 　そこからはもう己が本能の赴くままだ。恍惚の思いに乱されたまま、もはや溢れ出る欲を抑えることができずに無我夢中で愛しい者を貪り、熱い杭を彼の白く細い身体の中心に埋め込み、まるで獣のように本能のまま求めて求めて求めまくった。生息子の彼には当然衝撃だっただろうし、悦(よ)いことばかりではなかったかも知れないが、それでも想像していたよりは遥かに容易(たやす)く亭主を受け入れた。初めてとは思えないほどに、痛みも瞬時に快楽の波がさらっていったようで、焔(イェン)の獣のごとくの求め方が自然と彼を解し、ひとつにならんことを身体全体で望んでくれたのかも知れないと思えたのだった。