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143 策
誰しもが心を痛める中、遼二 の父である鐘崎 組の長 ・僚一 は香港のファミリーとも密に連絡を取り合いながら地下街奪還に向けての策を巡らせていた。飛燕 の実家である寺にも頻繁に出向いて来ては、黄 老人も交えて今後の展望を話し合っていた。
「香港のファミリーはどう考えておいでなのだ。ご子息である皇帝殿をこのまま羅鵬 らの言いなりにしておくつもりはないだろうとは思うが――」
飛燕 が渋顔で訊く。
「むろんだ。焔 自身のこともそうだが、地下街の住民たちが苦渋に喘いでいるのは事実だ。周隼 とて一刻も早く地下街を取り戻すべく各方面から調査と奪還に向けて動いている」
「そうか――。隼 殿もお辛いお立場だろうな」
なにせ目と鼻の先で次男坊の焔 が敵を祀る廟の建設などに駆り出されているのだ。いかに堪え忍ぶ時期といえど、その胸中はさぞかし怒りと苦渋で煮え繰り返っていることだろうと思われる。
「むろん隼 も俺もこのままヤツらの好き勝手にさせておくつもりは毛頭ない。羅鵬 についてはいよいよ背後が見えつつあるのも確かだ。奴 さん、バックにはデスアライブという強大な組織がついていると嘯いているが、隼 の調査で既に組織からは見放されたも同然らしいということが掴めてきた。ヤツの父親――例の羅辰 だが、組織からの虐待を食らって今は廃人というのは事実のようだ。元々組織の中でも上層部という立場にいたわけじゃなかったからな。ヤツがお前さんたちのいた遊郭街で、ある程度上納金を稼げていた時ならいざ知らず、組織にとっては使えなくなった駒のひとつなど取るに足らん程度にしか思っておらんようだ」
それゆえ挽回に向けて息子の羅鵬 が地下街を横取りすべく残忍な手口を盾に躍起になっているということらしい。
「羅鵬 にとっても九龍城砦地下街は文字通り最後の砦だろう。だからこそ焔 を始末せずに住民たちをまとめる役割をさせ続けているのだ。おそらく羅鵬 自身もてめえが焔 に代わって皇帝となったところで、地下街の住民たちがついてこないことは承知だろう。今は暴力と脅しという恐怖政治を敷いて何とか保っているようだが、それも長くは続くまい」
地下街の住民たちが苦渋を噛み締めながらも表向きは商売を続け、羅鵬 に従っているように見えるのは、何を置いても焔 があってのことだ。そうでなければ今頃は暴徒と化して羅鵬 を倒すべく戦状態となっていることだろう。皆、いずれは焔 と共に悪の手からこの街を取り戻したいと――それだけを心の支えに耐え忍んでいるのだ。
「焔 にも住民たちにも今しばらくの苦労を強いることになるが、必ず俺たちの手で地下街を取り戻す。それには羅鵬 が我が物顔で皆から巻き上げている金を削ぎ落とす必要がある。その為の策を隼 と考えているのだ」
僚一 曰く、羅鵬 の持ち金を減らすことで弱体化を狙い、ある程度弱ったところで一気に突き崩し、地下街を取り戻そうということらしい。
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