145 / 158
144
「ヤツらの持ち金を削げば、当然組織への上納金も滞ることになる。そうすれば組織からも使えない者という烙印を押されて、羅鵬 の失速は固い」
「金――か。確かに金銭面から攻めるのは得策だろうな。して、具体的にはどうするつもりなのだ。まさかヤツの元に強盗に入るわけもいくまいが」
飛燕 はそう言ったが、僚一 の答えはまさにそれで当たりだったようだ。
「そのまさか――だ。強盗と言えば聞こえは悪いが、羅鵬 の身ぐるみを剥がすには最短の策なのでな」
それを聞いて飛燕 はさすがに驚き、呆れ顔をしてみせた。
「そのまさかって……。僚一 、お前さん本気で強盗をやらかすつもりなのか?」
「――確かに手荒い方法だが、時間を掛けずにヤツらを潰すとなればそれしかあるまい。というよりも、元はと言えば地下街の皆が稼ぎ出した真っ当な金だ。強盗というよりも本来入るべき懐に取り戻すといった方が妥当だろう」
言い分は至極正当だが、盗みに入ることに違いはない。
「ふむ――。まあ羅鵬 の立場で考えるならば、頼みになるのは今や金だけであるのは事実であろうな。強盗に入るとひと口に言っても、実のところそう簡単ではあるまい。父親の羅辰 もそうだったが、巻き上げた金は銀行などの公的機関に預けることはしていなかった。おそらく羅鵬 という息子も自分の手元に現生の状態でストックしているはずだが――」
それを粗方奪うとして、問題はその方法だ。現金の在処を突き止めたとしても、気付かれずに盗み出さなくてはならないだろう。
「真正面から戦を仕掛けるというなら、むろん俺と紫月 も喜んで加勢させてもらうが――」
だが、そうなれば正面切ってのドンパチは避けられない。力関係で言えば香港の周隼 率いるファミリーの面々や鐘崎 組の組員たちが束となって殴り込むことで羅鵬 らを制圧することは可能かも知れないが、そうなれば多かれ少なかれ地下街の住民たちを巻き込むことにもなろう。誰一人怪我を負わせることなく金だけを奪うには、敵に気付かれることなく遂行する必要がある。周隼 と僚一 が慎重を期しているのも、おそらくはその一点だろう。
「大きな事を成すには多少の犠牲は致し方ない――などとはお前さんも皇帝殿も考えてはいまい?」
確かに飛燕 の指摘の通りだ。
「問題はそこだ。武力で制圧するとなれば少なからず住民たちに危害が及ぶ――」
ゆえにその方法に頭を痛めている真っ最中だと言って、僚一 は苦い表情を見せた。
「まあ――踏み込む手段はひとまず置いておいてだな。羅鵬 が現金を貯め込んでいる場所は突き止められているわけか?」
飛燕 が訊く。
以前父親の羅辰 が現金を貯め込んでいた場所といえば、彼の住処があった遊郭街の邸内だ。だが、羅辰 が出て行ってからは住む者もおらず、女遊郭の憩いの場として利用されている。息子の羅鵬 とて女の園となったような邸にちょっかいを掛けるのも煩わしかろうし、そもそも現在彼が住んでいるのは焔らの住処だった皇帝邸だ。皇帝邸にはそれほど巨大な金庫があるわけじゃなし、現金のストック場所も変更されていることだろう。
ともだちにシェアしよう!