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147 ギャンブラー

 そんなある日のことだ。羅鵬(ルオ ポン)から元住んでいた皇帝邸に呼び出された(イェン)は、ここ最近の経営状態の悪化について小言を食らっていた。 「周焔(ジォウ イェン)! いったいどういうことなのだッ! この一ヶ月で商売の上がりが激減しているではないか!」  羅鵬(ルオ ポン)はえらく憤って腹を立てているが、(イェン)にとっては身に覚えのないことといえる。 「――何の話だ」 「周焔(ジォウ イェン)! 貴様……ッ、とぼけるのも大概にしろ! まさかこの俺を(たばか)って、上がりをくすねているわけか!?」  相変わらず身勝手な暴言だが、それこそ濡れ衣もいいところだ。 「言っている意味が分からんな。地下街の者たちは食うだけで精一杯の中、以前にも増して精力的に営業を続けてくれている。そんな彼らから俺が上がりを絞り取るなんざ、理不尽な真似をするわけがあるまい」  (イェン)がそう返すと、羅鵬(ルオ ポン)はより一層憤って声を荒げた。 「では言わせてもらおう! これを見ろ! ここ一ヶ月のカジノの上がりだ!」  何やら細かい数字が羅列された紙を突き付けられる。 「カジノの上がりだと? それがどうした」 「どうしたもこうしたもあるかッ! 連日客側の勝ちが異常だ! ここのディーラー共はボンクラ揃いかッ!」  どうやらカジノで店側の負けが込んでいるらしい。羅鵬(ルオ ポン)曰く、ディーラーが不甲斐ないせいだと言いたいのだろう。ザッと計上に目を通したところ、なるほど異常といえる数値にさすがの(イェン)も我が目を疑う羽目となった。 「――確かにこれまでは有り得ん数字ではあるが」 「まだシラを切る気かッ! 周焔(ジォウ イェン)、てめえが陰で良からぬ工作でもしてやがるんじゃねえのか!?」 「俺が――? 身に覚えはねえな。単純に考えれば、よほど目利きの客が大勝ちしているとしか思えんが――」  (イェン)の真剣な様子から嘘をついているようには思えなかったわけか、羅鵬(ルオ ポン)は原因を探れと言い出し始まった。 「ちょうど廟も完成間近なんだろうが! てめえはもう建設の方は見なくていいから、カジノの方を何とかしろ!」  何とかしろと言われても、それこそ都合の良過ぎる話といえる。 「羅鵬(ルオ ポン)、俺はこの一年の間、ずっと廟の建設に携わってきた。廟が建つ区画にあるバーとクラブの経営には目も届こうというものだが、カジノについては街区も違う。第一、カジノのある区はお前さん方が経営を回してきたんだろうが。雲行きが悪くなったからと俺に投げられてもな」 「う、うるせえッ! つべこべ言わずにカジノの状況を探って来りゃあいいんだ! 使い物にならねえディーラーは切っても構わん! すぐに腕のいいディーラーを見繕って補充しろ!」  なんなら側近連中や鐘崎(かねさき)組の組員たちを地上へ派遣してでも新しいディーラーを調達して来いと言わんばかりだ。まったく、言っていることがめちゃくちゃである。――と、ちょうどその時だった。羅鵬(ルオ ポン)の部下が血相を変えて飛び込んで来たのだ。 「ボス……ッ! 羅兄(ルオ イォン)! 大変です!」  部下数人が顔面蒼白で、今にも倒れ込む勢いでいる。 「何だってんだ、騒々しい! こちとら今、カジノのことで手一杯なんだ! くだらねえ報告ならただじゃ置かねえぞ!」  ところが、くだらないどころかそのカジノでとんでもないことが起こっていると言って、部下たちは息も切れ切れでいる。 「カジノでとんでもねえことだと?」 「は、はい……ルーレットとカードゲームで……途方もない大勝ちをした客が現れまして……」 「金庫にプールしてある金がほぼ空にされました……」 「何……だと……」  これには羅鵬(ルオ ポン)に違わず(イェン)も目を剥くほどに驚かされてしまった。
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