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「青二才が……言わせておけば調子に乗りやがる……! 皇帝の時代には素晴らしかっただと!? 何も知らねえクソガキがでけえ口叩きやがって……。てめえの言う皇帝ってのは残念ながら今でもこの街の統治者だ! ヤツはな、てめえの思うような有能な統治者でも何でもねえ、ただのボンクラさ! どんな噂が一人歩きしてやがるか知らねえが、この街は今も昔もそこにいる無能の周焔 が治めてんだ! 文句があるならヤツに言いやがれ!」
その言葉にギャンブラーの若者は驚いたようにして肩をすくめてみせた。
「おや、皇帝様は今でもこの街の統治者であられると? ではあなたは皇帝様のご配下の方で?」
配下という言い方に羅鵬 は激怒したようだ。
「ふざけるなッ! 誰が配下だ、誰が!」
「違うのですか? ではあなた様はいったい何です?」
「……てめえ……どこまでも舐めくさりやがるかッ! 俺様はなぁ! そのクズ皇帝を使ってやってる上役だ! 言うなればこの九龍城砦の真の統治者だ!」
覚えておきやがれ! と、荒ぶれる。だが、ギャンブラーは一向に物怖じする素振りもなく落ち着き払って堂々たるものだ。「はあ、左様でしたか」などと言って笑みを崩さない。脅せども怒鳴れどもまるで動じない若者に、逆に空恐ろしさを覚えたわけか、業を煮やした羅鵬 は焔 に向かって早くこのクソ生意気な青二才を追い出せと責を押し付け始まった。
「周焔 ! おい、ボンクラ皇帝! どこに行きやがった!? 早えとこ出てきてこのクソガキを追い出さねえかッ!」
羅鵬 に怒鳴られて、人垣の中を縫うようにして焔 が姿を現したのを横目に、ギャンブラーは彼に背を向けたままで、またも薄く唇に笑みを浮かべた。
「――あなたが皇帝様ですか?」
そう訊いた声は若人のテノール。背はすらりと高く、焔 には到底及ばないものの一般的には長身の部類といえる。身体の線は大層細くて一見痩せすぎとも思えるが、どことなく懐かしさを感じさせる。若きギャンブラーの背中を見つめながら、焔 は愛しき伴侶のことを思い浮かべてしまった。
見た目はその冰 よりも少し長身で、何より細い。髪も冰 よりは長いが、身体全体から漂う雰囲気が似ているのか、一年前に離れ離れとなった愛しき伴侶を思わせるのだ。世の中には似た人間がいるというが、今の焔 にとってこの若きギャンブラーは不思議と心を震わせる雰囲気を持っていた。
(冰 ――どうしているであろうな。あれから一年。迎えに行くと言っておきながら、俺は未だその約束を果たせずにいる)
そんな思いを呑み込んで焔 は言った。
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