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そうした声を上げることすらできず、我慢に我慢を重ねて耐え忍んできた地下街の住民たちにもついに限界がやってきたのだ。これまでは一年前の大火事のようなことを起こされては敵わないと耐え忍んできたものの、今の羅鵬 と焔 の真逆といえる対応を目の当たりにして、声を上げる勇気が持てたのだろう。というよりも、覚悟といった方が正解か――。誰しも例えこのまま灰になったとしても、羅鵬 などの下で己 が意に逆らって生きるのは懲り懲りだという決意の表れである。
「皇帝周焔 ! 我々にとって統治者たるはあなた以外にない!」
「我々は命を賭してでもあなたと共に生きたいのです!」
「羅鵬 に鉄槌を!」
「羅鵬 に鉄槌を!」
「その通りだ! 我々を葬りたくば一年前のように再び業火を起こしてみるがいい」
「私たちはもう負けはしない! 全力でお前に立ち向かうぞ!」
まるで天高く立ち上る業火の炎の如く、カジノ内に団結の声が轟いた。
その騒ぎを聞いて駆け付けて来たバーやクラブ、そして遊郭のある街区からも大勢の経営者とスタッフに客らまでもが押し寄せて、もはやカジノ区全体に入り切らない人々で溢れかえる。
こうなってはさすがの羅鵬 も逃げ場がない。彼についていた手下連中とて羅鵬 に逆らう素振りこそ見せないものの、暴徒と化す勢いの地下街住民たちを前にしては寝返るが得といった表情を見せる者も出始める。
金庫に貯めた金は吸い上げられて一文無しも同然。もう金で手下を従わせることさえままならなくなった羅鵬 は、目の前の焔 に向けた短銃の引き金に手を掛けた。こうなったらこの偉大なる皇帝を殺すしか残された道はないと思ったのだろう。
「クソ……ッ! どこまでも腹の立つ野郎だ! 何が皇帝だ! 俺様を恐れて何ひとつ出来やしねえこんな男が統治者だと!? 笑わせやがる!」
お前さえいなくなれば地下街の住民とて心の拠り所を失っておとなしくなろうというものだ!
そんな思いのままに羅鵬 は狙いを定めた。
「死ねえー! 周焔 ッ!」
悪魔のような絶叫がカジノの高い天井に響き渡る。
それとほぼ同時だった。羅鵬 の手から短銃が叩き落とされ、カラカラと焔 の足元に転がった。
驚いて視線を上げれば、そこには焔 の双眸を一瞬で熱くする光景――。短銃を叩き落としたのは不敵且つ頼もしい笑みをたずさえた紫月 だったのだ。そして、彼の周囲を取り囲むようにして次々と懐かしい面々が視界に飛び込んでくる。
僚一 、飛燕 、実父である周隼 に兄の周風 、加えてファミリー側近たちの姿までがずらりと並んでいた。
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