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その後、羅鵬 一派は組織幹部の松健正 によって連行され、この街を出ていくこととなった。皇帝邸は再び焔 の手に戻り、大々的な清掃と引っ越しが行われた。
焔 らが建てた廟には羅辰 ではなく商売の神様が祀られることとなり、地下街は日に日に以前の活気を取り戻していく。
そんな中、皇帝邸では焔 と冰 が一年ぶりの再会に手を取り合っていた。そして遼二 と紫月 もまた同様に、離れていた年月を振り返る。
「紫月 、飛燕 殿。それに黄 の爺さん。冰 を守ってくれたこと、本当にかたじけない。この通り礼を申し上げます」
一年前、苦渋の中にあって飛燕 らに冰 を託した際のことが脳裏に蘇る。
今となればあの時のことが昨日のことのようだと――誰の胸にも郷愁の思いが過ぎる。
大火事で崩壊し、見る影もなくなった遊興街の廃墟が目に浮かぶ。これ以上の被害を出さないようにと羅鵬 に従い、愛する者たちと離れ離れになる決断をしたことが走馬灯のように脳裏を巡る。
『皇帝様、その時が来たら――我々は必ずこの九龍城砦に帰って参ります。それまではこの命に代えても冰 さんをお護りいたしますゆえ』
そう言ってこの街を去って行った飛燕 らの後ろ姿が目に焼き付いて離れない。
『焔 さん、たとえどんなに遠く離れても、僕の心はあなたと共にあることを忘れないで――』
大粒の涙に濡れる顔で幾度も幾度も振り返りながら日本へと旅立った冰 の顔も然りだ。きっと彼もまた、この一年の月日を胸が潰れる思いで過ごしてきたに違いない。だが、悲しみに暮れるそんな境遇の中でも、いつの日か訪れるだろうこの日の為に苦しい修行に身を投じてくれていたとは――。
茨の道というべき苦行に耐えた冰 もさることながら、心を鬼にしてその彼を指導し、導いてくれた黄 老人と飛燕 。そして体調管理から心の健康面まで身を挺して支え続けてくれた紫月 。
また、この九龍城砦に於いてはいつも右腕となり支え続けてくれた遼二 と鐘崎 組の面々たち。制圧された街の再建に尽力し、恨み言ひとつ言わずに共に力を合わせてくれた地下街住民の皆。そして、大きな目で未来を見据えてデスアライブという惨い噂が絶えない巨大組織に伝手 をつけるべく尽力してくれた父と兄と僚一 ら。彼らがあってこそこうして自分は生かされているのだと、永き日々を思い返せば再び目頭が熱くなる。男泣きに暮れる焔 を皆の明るく頼もしい笑顔が取り囲む。
かくして九龍城砦地下遊興街は、これまで以上の活気を取り戻すべく、より一層強まった絆のもと新しい未来へと向かって歩み出すのだった。
第四章 - FIN -
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