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158 思惑、うごめく(第五章)

「あなた……どうしましょう。このままでは遺産はすべてあの妾たちに渡ってしまうわ!」 「――ああ。当主の容態も相当に悪いということだからな……。困ったものだ」 「んもう! そんな悠長にしている場合!? 聞くところによると、ご当主は明日をも知れぬ状況だというじゃないの! 亡くなる前になんとか手を打たなければ!」 「分かっておる! それを今、どうしようかと考えておるのだ……!」 「そんなことをしている間に……当主が亡くなって……弁護士からの発表があってからでは遅いわ! あの一族のことですもの、下手をすれば私たちには一銭の遺産も入らない可能性だってあるのよ!」 「……ッ、そうガミガミ喚くな! だからこうして頭を悩ませておるのだ!」 「悩ませているって、いつもそればっかりじゃないの! 何か手立てはないの!?」  午後のリビングで言い争いを繰り返しているのは一組の中年夫婦だ。  部屋の造りはそこそこ豪勢でいて、ごく一般家庭よりは裕福な暮らしをしていると思われるものの、家具類やカーテンなどの調度品は古く、夫婦の身につけている服も質の良い品ではあるがどこそこ流行遅れといえるだろうか――。  おそらく以前は結構な羽振りの良い生活を送っていたが、現在は当時ほどの余裕はないといったところなのか。  焦燥感の漂うその部屋で、ふと亭主の方が何かに閃いたように瞳を見開いた。 「そうだ! この手があったか!」  頬を紅潮させて心躍らせた亭主を、妻の方が期待顔で振り返る。 「何かいい案が思いつきましたの!?」 「ああ……その通りだ。あの子供――」 「……子供?」 「かれこれもう二十年になろうか……。我が実妹が産んだ男児だ。あの子供が無事に育っていれば、今頃は二十歳になっていよう。あの子を伴って一族の前に連れて行けば文句はなかろう。彼は当主と我が妹の間に生まれた子供だ。いわば一族にとって唯一の嫡子ということになる! 妾どもが逆立ちしたって敵わない生粋の後継者なのだ!」 「……そういえば、そんなことがあったわね……。確かに……あの時の赤子が生きていれば一族にとって誰よりも正当な権利を持つ後継者だわ! 彼が遺産を手にすれば私たちも恩恵に与れる!」  それで、その子供は今どこでどうしているの? と、妻は逸り顔だ。 「それなんだがな――。妹が病で亡くなってから、私も事あるごとに子供の行方を調べてきたのだが……。近年になってその所在は見当がついたものの、少々厄介なところで生きていることが分かったのだ」 「厄介ですって?」 「ああ……。その子供は現在、香港にいるようなのだ」 「香港――?」 「しかもどうやらマフィアの組織に匿われているらしい」 「マフィアですって!?」

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