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「まあ! なんて謙虚な子でしょう! 伯父さんと伯母さんに受け取ってくれだなんて、あなたは本当に心のやさしい子ね。でもね、冰 ちゃん。そんなあなただからこそ伯母さんたちはあなたに遺産を継いで欲しいと思うのよ! そりゃあ周焔 さんだって香港一のマフィアでいらっしゃるのだから? お金には困っていないでしょうし、あなたに贅沢をさせてくださっているのは承知よ。でもね、お金なんてあって困るものではないのよ。口ではご辞退なされたけれど、周焔 さんだって世間体を考えてのことだったのよ。あなたが遺産を持って帰れば本心としてはうれしいはずよ」
「……そんな……。焔 さんはそんな人では……」
「あなたはまだ若いから大人の裏表がよく理解できないのかも知れないけれどね。誰でも本音と建前があるの。周焔 さんだって絶対に喜ばれるに決まっているわ」
それでも焔 が遠慮すると言うのなら育ててくれた黄 老人に進呈すれば恩返しになると伯母は言った。だからとにかく氷室 家へ行って教えた通りに振る舞うだけでいい。無事に遺産が手に入った時点で焔 も黄 老人も本当に必要ないというなら、その時は伯父さんと伯母さんが預かっておくことだってできるのよ――伯母という女は必死にそう言い聞かせ続けた。
それでもなかなか『うん』と言わない冰 に、ついには剛を煮やしたわけだろう。伯母という女は次第に苛立ちを見せるようになっていった。
「こうまで言っても理解してもらえないとはね。冰 ちゃん、あなた若いくせに案外強情なのね! だったら仕方ないわ。本当はこんなことを言いたくないんですけどね、私たちには周焔 さんのお立場を悪くすることだってできるのよ」
冰 にとっては理不尽極まりない言い草である。
「焔 さんの立場を悪くするって……どういうことですか」
「ふん……! なんだかんだと言ったところで所詮あの方はマフィアでしょ。言ってしまえば堂々と陽の光を浴びることのできない裏社会の人間じゃないの! そんな人を警察に引き渡したらどうなると思うの?」
「警察って……」
「あの方がなぜあんな地下街にいると思うの? 要するに堂々と世間に顔向けできない闇の稼業で生きているからよ! そんな人間を正攻法で貶めることなど簡単なのよ? どうせ人様には言えないような後ろ暗いことに手を染めているマフィアなんだから」
「そんな……! 焔 さんに酷いことをするのはやめてください……!」
「わたくしたちだって何も好んであの方を貶めたいわけじゃない。あなたがちょっとお利口になって遺産を手にしてくれれば警察に売ることなんかしないと約束するわ」
よく考えることね――と、伯母は顎をしゃくってみせた。
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