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『焔 と落ち合えたか! 良かった!』
「はい! お兄様、ありがとうござい……」
礼を言い終わらない内に焔 に抱き包まれたのだろう、しばしガサゴソという雑音と同時に電話を代わった曹来 の明るい声が聞こえて、兄・周風 は無事に焔 が冰 を保護できたことを知るのだった。
◇ ◇ ◇
「冰 ――すまない。心細い思いをさせた……」
「焔 さん……焔 さん! 心配を掛けてしまってごめんなさい。まさか焔 さんが日本に来てくださっていたなんて」
「ああ……。ああ――! すまなかった。無事で良かった――!」
離れていたのは確かにほんの数日だった。だが、焔 にとっては千秋にも思える時間だったのだろう。息もできないほどに強く強く抱き締められて、冰 もまた一気に緊張の糸が解けたのか、無意識の内、色白の頬にホロリと涙の雫がこぼれ落ちたのだった。焔 は羽織っていた漆黒色のコートを脱ぐと、すぐさま愛しい者を包み込んでは再び抱き締めた。
「寒かったであろう……。こんな薄着で――」
冰 の格好は拐われた日に同窓会に出掛けて行った時の準礼装のスーツだった。あたたかい香港の地ではそれでも良かろうが、真冬の日本では確かに厳しい。焔 はしばし人目も憚らずに愛しい伴侶を腕に閉じ込めたまま離そうとはしなかった。
側では通話を代わった曹来 が安堵のままに周風 と話しながら冷やかすような笑顔を見せていた。
『曹来 、よくやってくれた。礼を言うぞ』
「こちらの方は心配ない。冰 君もこの通り無事だったし、例の氷室 家の兄夫婦というのも遼二 が警視庁に協力を仰いでくれているところだ。すぐに所在も割れてお縄にできることだろう。周風 、後始末にあと数日はこちらに留まらせてもらうが、なるべく早く帰るから待っていてくれ」
『ああ、構わん。数日と言わず時間は掛かっても構わんからきっちり始末をつけてきてくれ。本当によくやってくれた』
こうして冰 は無事に焔 の手で保護された。
ホテルへ着いたのはすっかりと夜の闇が降り切った頃だった。降り始めた雪が勢いを増し、高層階の部屋から階下を見下ろせば、ビルのてっぺんも道路も一面の銀世界となっていた。もしも保護するのがもう少し遅れていたならば冰 は文無しのまま凍えていたことだろう。それを思うと焔 は憤りを隠せなかった。
とにかくも国際電話で香港へと連絡を入れた冰 の機転を讃えながら冷え切ってしまった細い身体を抱き締める。まずは何を置いても風呂で身体を温めるのが先決とも思ったが、あまり急激に熱い湯に浸かるのも良ろしくないとの鄧浩 からの指示で、温かいドリンクで室温に慣れされることにした。
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