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「周焔 殿――お気持ちは痛いほど理解しているつもりだ。今回、結果的にはご伴侶がご無事だったから良かったものの、あなたとしてはご自分の手でケリをつけられたい思いもよく解る。だがしかし――」
そこから先は言葉を詰まらせた丹羽 だったが、しばしの後、意を決したように薄い苦笑を浮かべてはうなずいた。
「――分かりました。例の二人の捜索をあなたに任せましょう」
そう言ってコクリと目線だけを伏せた。
「よろしいのか」
「構いません。責任は私が――」
「そうか。ご理解に感謝する。ヤツらを捕らえた暁には、必ず五体満足のままあなた方に引き渡すと約束する。お立場を害するようなことも決してしない」
つまり、身勝手な報復で伯父夫婦を亡き者にすることはしないという確固たる表明だ。
「丹羽 殿のご理解に感謝する。約束は必ず守るゆえ安心して欲しい」
焔 もまたしかとうなずき、理解への謝意を表す。その傍らでは遼二 もまた、すまないなといったように丹羽 の逞しい肩をポンと叩いたのだった。
◇ ◇ ◇
その後、焔 ら一行は冰 を伴ってひとまず香港九龍城砦へと舞い戻った。冰 の安全を確保した上で伯父夫婦を捕らえに動く為だ。焔 は冰 を真田 ら家令の者に預けると、遼二 と李 、劉 の側近二人を伴ってすぐにスイスへと発った。
「ヤツらがコンタクトを取ったスイスの銀行が割れた。ひとまず金を預からせてヤツらを安心させ、その後口座を凍結するよう親父が口利きをしてくれることになった」
香港へ戻る直前に、焔 は父・周隼 に報告を上げ、伯父夫婦の立ち回りそうな銀行に目星をつけていた。幸いなことにそこは周 家とも取り引きのある銀行だったゆえ、父の隼 が早急に手を回してくれたのだ。
「無事に金を移し終えればヤツらにとってもうスイスに用はなかろう。口座が凍結して一文無しになったことに気付かれる前に所在を突き止める。その後、警視庁の丹羽 に身柄を引き渡すまでの間、ヤツらの行方を監視する」
丹羽 との約束で、彼らの命は奪らないと誓った。それを反故 にしない為には陰から監視して、身の安全だけは守る必要があるからだ。
「ヤツらの監視については滞りなく手配が済んでいる。うちの組員たちが交代で見張るから心配ない」
伯父夫婦の見張りは鐘崎 組の若い衆らによってがっしりと固めてくれるそうだ。
「すまぬな、カネ。足労を掛ける」
「大事無い。お互い様だ。それよりも、大金が転がり込んだことでおそらくヤツらは悠々自適で調子付いているだろうからな。名のある老舗ホテルに宿を取っているはず。早々に所在が割れるだろう」
焔 は銀行へ向かい、遼二 が宿泊先の捜索に当たることとなった。
その後、周隼 からの知らせを受けていた銀行の方では、焔 が出向くと同時に難なく口座が凍結。遼二 の方でも想像通り、宿泊先はすぐに割れた。予想した通り、名のある高級ホテルだ。
「よし、ヤツらは手持ちの金が尽きるまでは左団扇だろう。文無しになったことに気付かれる前に身柄を押さえる。決行は今夜だ」
「承知した」
◇ ◇ ◇
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