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184 悪党どもの末路
例の伯父夫婦が事態に気付かされることとなったのは翌日のことだ。目覚めた時には自分たちの身に何が起こっているのかということがしばらくの間、理解できなかったほどだった。
「……ここはいったい……何処なの」
「…………」
昨夜までは確かにスイスの高級ホテルにいたはずだ。それなのに目覚めた途端に視界に入る景色が様変わりしていたのだ。二人は驚く――などというのを通り越して茫然自失となってしまった。信じ難いことに着の身着のまま、見たこともない路地裏に横たわっていたからだ。
「……どういうことッ……」
辺りを見渡せば、まるでスラム街さながらの景色――。狭い路地にはどこからともなく漂ってくる何かが腐敗したような臭い。路上には所々にゴミや泥が点在しており、これは夢なのか現実なのか分からなくなるほどだ。ただ、夫婦の視界には互いの姿がはっきりと確認できる。これは夢などではない――そう気付いた時にようやく蒼白となった。
「どういうこと……!? なぜ私たちはこんなところに」
「……分からん……昨夜までは確かにスイスのホテルにいたはず」
頭がはっきりしてくるごとに自分たちが置かれている状況が見えてきたようだ。
持ち物といえば唯一は財布に入っていた現金とカード、加えてパスポートなどの身分証だ。それ以外は着替えも鞄も宝飾類も全く無い。夫の方はともかく、妻の方は既に気が違いかけるほどに混乱していた。
昨夜、スイスのホテルで彼らが眠りについたのを見計らって強めの睡眠剤を嗅がせ、一晩の内に二人を移動。着の身着のままでこの路地へと放置したのは焔 らの手によるものだった。
ここはとある国のスラム街だ。日本語など無論のこと、英語ですらおいそれとは通じない治安の悪いこの街で、それでも運良く二人が銀行へ辿り着けたとしても、そこで知るのは自分たちが一文無しになったという驚愕の現実だけだ。助けを求めて警察へ駆け込もうにも、そこでも国際手配犯のビラが一等目に付く箇所に張り出してある。罪状からすれば実際には国際手配犯というほど大袈裟な罪ではないにしろ、わざわざそんなビラを貼ったのは焔 による報復の一環だ。加えて街にはスリや強盗のような輩がうじゃうじゃとたむろしている。
まさに前後左右、どこにも救いの無い地獄に突き落とされたというわけだ。
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