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「遊郭街では性病などの観点からも通常よりは頻繁に健康診断が行われております。特に花香 は御職でしたし、私の両親のいる病院で半月に一度は検診を受けておりました。しかも亡くなる数日前のことです」
その検診でも至って健康で、問題はなかったのだという。
「それが突然の急死で、原因もよく分からずじまいだったゆえ、両親も未だに彼のことが頭から離れないと申しておるのです」
その次の年――つまり二年前――に亡くなったのは星海 といって、花香 の後を継いで御職になった男娼だそうだ。彼は高所からの転落だったそうだが、それも幽霊が出ると噂が広がっていた時期に起こったことから、遊郭街では完全に妖 の仕業だと恐れられるようになったという。
そして今また、再び起こった幽霊騒動。とくれば、紫月 や菫 らが真剣になっても当然といったところか。遼二 もまた、ただの戯言と捨て置くわけにもいかないと思うのだった。
そんな中、女遊郭を訪ねていた紫月 が戻って来た。
「兄 さん、お帰りなさいやし。ちょうど今、鐘崎 の若 様にも例の件をお伝えしていたところです」
「おう、ご苦労だったな。遼 も呼び立ててすまねえ」
紫月 もまた二人のテーブルに腰を落ち着けた。
「それで――どうだったのだ。酔芙蓉 姐姐 を訪ねたのであろう?」
遼二 が訊くと、珍しくも真剣な顔つきで紫月 はうなずいた。
「ん、それがさ。女遊郭の方では今回もまた、特には何も起こっちゃいねえってんだよ」
「今回も? ということは、過去二回の幽霊騒動ってのもこの男遊郭の中だけで起きたということか?」
「ん、まあ幽霊がどうのって話は女遊郭の方でも多少なりと噂程度は出てるそうなんだけどな。実際に幽霊を見たって話は聞かねえとか。俺ら男遊郭の方でそんな噂が持ちきりになってるもんで、あっちでも多少話のネタには上がってるらしいが」
「ふむ――。幽霊云々ってのは、俺も今しがた菫 から聞いた話で初めて知ったわけだが――カジノ区や遊興区の方でもそういった噂は耳にしてねえがな」
「だよな。なにせ以前も幽霊騒動が起こったのは俺らの街だけだったから」
「――では実際に事が起こっているのはこの男遊郭だけとな」
遼二 は過去二回の事件についてさらに詳しく尋ねることにした。
「三年前の花香 という男娼が亡くなった死因は、原因の特定できない急死ということだったが――。二度目の時はどういった経緯だったのだ? 高所からの転落ということだが」
転落と聞いてすぐに思いつくのは飛び降り自殺だが、側に誰かがいたのであれば突き落とされたという事件性も出てくる。
「ああ。それがな――」
紫月 によれば、この第二の件についても事件か事故か未だはっきりしていないのだという。
「ここの遊郭街は隣の街区との間に高い壁があるのは遼 も知ってるべ? その壁ってのは地面から天井まできっちり伸びてて隙間が無えわけだよ。ここのすぐ左隣は地下街の住民たちが住んでる住居区で、もう一方は皇帝様や遼 たちの邸とカジノがある街区だ。出入りするには遊郭街の大門だけで、壁を乗り越えることができねえ造りになってる」
街区を区切る壁自体が地下街の地面から天井まで伸びているので、乗り越えるのは当然無理だ。遊女や男娼が足抜けできないようにとの理由から、以前ここを取り仕切っていた例の羅辰 がそういう造りにしたのだそうだ。
「だから壁をよじ登って飛び降りるってことは本来不可能なんだが、実は壁の一部が壊されていてな。二年前に男娼が転落したのはちょうどその壊れた箇所からだったんだ」
天井にほど近い城壁には照明器具などの修理点検用に足場がぐるりと張り巡らされていて、いわば石造りの欄干のようなものだそうだ。言われてみればここ地下街全体でもそういった点検用の足場が確かに存在していることに気付く。各所に石段も設置されているから、工事関係者でなくともその気になれば誰でも登ることは可能といえる。
だがまあ、所詮は地下街のことだ。登ったところで遠くの景色が見渡せるわけでもないし、用のない者が好き好んで行く場所でもないだろう。
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