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 春日野(かすがの)夫妻からは先刻息子の(ジン)から聞いたことと同じことが語られた。やはり三年前に亡くなった花香(ホアシャン)の死因については未だにこれといった原因が分からず仕舞いだそうだ。 「先生方、その花香(ホアシャン)ですが……何か――薬物のようなものが盛られたという可能性はないのでしょうか」  遼二(りょうじ)が訊けども、当時の検死では特に薬物反応は見られなかったそうだ。 「正直なところ、我々も毒物の類を疑って検査をしたのですがな。決定的な痕跡を見つけられずに、心臓発作ということで決着せざるを得ませんでした。当時はまだ例の羅辰(ルオ チェン)が遊郭街を仕切っていた時期でしたからな。事件性を指摘すれども聞き入れてはもらえませなんだ」  ただ、亡くなった男娼というのが当時の売れっ子だったことから、羅辰(ルオ チェン)も多少腑に落ちない素振りは見せていたという。 「瑞雲楼といえば紫月(ズィユエ)殿の居られる椿楼に次ぐ大店(おおだな)でしたから、そこの御職となれば稼ぎも相当のものです。そんな男娼を失って羅辰(ルオ チェン)は悔しがってはおりました」 「ふむ――そうですか」  ということは、幽霊騒動で亡くなった男娼たちに手を下したのは羅辰(ルオ チェン)ではないということだろう。金のなる木である彼らをみすみす葬る理由が無いからだ。事が羅辰(ルオ チェン)によるものではないとするなら別の思惑を持った者の仕業ということになる。 (この遊郭街に彼らを邪魔に思っている誰かがいたというわけか――)  まあそれも二つの出来事が誰かの故意によるものとすれば――の話だ。まだ事件と決定付けるには様々証拠が足りないことだらけである。 「(イェン)もこれらのことは当然知っているのであろう? ヤツはどう考えているのか――ちょいと意見を聞いてみねばな」  遼二(りょうじ)は当然(イェン)の耳にも届いていると思ったのだが、どうもそうではないらしい。 「実はな、(りょう)。男娼たちが亡くなったことや幽霊騒動の話は皇帝様には報告を上げていねえんだ」 「――? では(イェン)はこのことを知らねえってわけか?」 「ああ。当時は羅辰(ルオ チェン)の統治下だったからな。男娼が病で亡くなることは正直珍しいことでもなかったし、この遊郭街で起こったことはすべて羅辰(ルオ チェン)のところで留め置かれてた。俺自身、あの頃は皇帝様と直に顔を合わせる機会もなかったから」  紫月(ズィユエ)(イェン)と面と向かって話をしたのは(ひょう)が男遊廓に売られた際が初めてのことだ。その時は遼二(りょうじ)も一緒だったからよく覚えている。 「そうか――。ではともかく(イェン)に報告を上げる必要があろうな。三年前と二年前の件も含めて、今回の幽霊騒動について詳しく調べねばならん。万が一にもまた誰かの命が狙われているとするなら――だ。そう悠長にしていていい案件ではあるまい」 「ん、俺もそう思ってる。今は羅辰(ルオ チェン)もいねえ。皇帝様に意見を仰いで、事の真相を探る必要があるってな」 「ふむ。ではまず(イェン)のところへ急ごう」  二人は皇帝邸へと向かい、(イェン)も交えて過去二件の男娼が亡くなった事件を洗い直すことに決めたのだった。

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