194 / 207
193 忍び寄る企み
一方、幽霊騒動が起こる少し前のことである。男遊郭の、とある妓楼で高位にある男娼の一室では、神経質過ぎるほどに頑丈な戸締りの中、彼が馴染み客の男と濃密な睦の時を交わしていた。
高級な調度品で彩られた古代中国皇族さながらの室内には甘い香りを発する香が焚かれている――。
天蓋からはそれこそ古 の皇帝が使っていたような天幕が張られており、その中では自慢の白い肌を惜しげもなく晒し出した男娼が執拗で淫猥な交わりを欲する客の男に自らを与えていた。
「まったく……! お前さんときたら相変わらずに容赦のないことだね。もう少し自重しておくれでないと、私はまだ明日もそのまた明日も別のお客を相手にしなければならないというのに」
情事の直後、少々尖らせ気味の唇をツンと結んでは拗ねた素振りで赤い襦袢を無造作に羽織る。乱れ髪を手で撫で付けながら背を向ける彼の様子を、客の男は下卑た笑みとともに一瞥しては、満足そうに煙管に手を伸ばした。
「そう拗ねるな。今宵は何をどうしようと俺の好きにしていいと言ったのはおめえさんだぜ? それにほら――望みのブツもちゃーんとこうして手に入れてやった」
男が枕の下に手を入れて小さな巾着を取り出すと、それまで拗ねていた態度を一転させて、男娼は甘ったるい声を上げてみせた。
「ふふ、冗談だよぉ、お前さん。それを持って来てくれているなら最初から焦らさずにそう言っておくれよ」
「ふん! 相変わらずに変わり身の早いこった。この俺との情事よりも結局はブツが目当てと来たか」
「ふふ、そう憎まれ口を叩かないでおくれよぉ。私のそういうところが可愛いんだろう?」
羽織り掛けた襦袢を床に捨て置いては、再び白い肌を曝け出して男の懐に身を委ねた。
「は――! そういう変わり身の早さは憎たらしいに違いねえが、確かにある意味可愛いと言えなくもねえ」
「お前さんとは長い付き合いさね。私のこの性格はよくご存知じゃないかい?」
それより早くその″ブツ″をお寄こしよと催促の視線でしなだれ掛かる。
「今回はちょいと入手に手こずったが、まあこの俺様に掛かればこの通りさね。ほらよ、確かめておくんな」
白塗りの手に巾着を握らせながら首筋に濃厚な接吻を見舞う。
「あん! 今の今まで散々嬲っておいてまだ足りないのかえ?」
抱擁を振り解いて大事そうに巾着を開いた。
「ふふふ、さすがは色と欲と――何より悪事に関しては右に出る者がいないと言われるお前さんだねえ。今回もよく手に入れておくれだ」
「はん! 煽 てなんざ必要ねえ。それより――今度はいったい誰を狙うつもりだ?」
「――狙うだなんて。人聞きの悪い言い方はしないで欲しいねえ。第一、それは訊かない約束だろう? なに、ちょいと邪魔な鼠を退治するだけさね」
表面上はにこやかながらも目の奥は笑っていない。
ともだちにシェアしよう!

