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195 三人の推理
九龍城砦地下街、焔 邸――。
一方、遼二 と紫月 は幽霊騒動について話し合う為に皇帝・周焔 の元を訪れていた。事の詳細を聞いた焔 もまた、最初は遼二 と同様に子供じみた悪戯がエスカレートした程度のものだと感じたようだ。
「ふむ。だがまあ……騒動の度に実際に男娼が亡くなっているというのは気に掛かる。三年前の花香 という男娼については死因も定かじゃねえということだったな? 仮に他殺ならば――だ。当時の御職で金の卵だった花香 を羅辰 が手に掛けるというのは確かに考えにくい。となれば、男遊郭の中の男娼仲間か、あるいは客によって葬られたという可能性も出てくるな」
考え込む焔 の傍らで紫月 もうなずいた。
「うん……、原因不明の突然死だったからな。羅辰 の手によるものじゃねえとすれば、皇帝様の言うように男娼同士の地位争いか――あるいは客との間で花香 がトラブルを抱えていたのかも知れねえ。恨みか逆恨みかは別として私憤で殺されたという可能性もある」
「つまり個人的ないざこざが元で殺意が芽生えたということか。私憤が原因の殺害だったとして、三年前の件については薬殺であろうな」
「うん。けど、菫 のご両親が検死をしたが、薬物の類は見つからなかったそうだ」
「――痕跡を残さずに毒殺できるような代物かも知れん。三年前のことはひとまず置いておいて、二年前の時は高所からの転落ということだったな?」
「ああ。城壁の壁が壊されていて、そこから隣の住居区に落ちたわけだが――」
「となると、投身自殺か――あるいは突き落とされたか。はたまた死とは無縁の不運な事故か」
三つに一つだろうと焔 は言った。
「その際の検死も菫 のご両親が行ったのか?」
見解はどうだったのだと焔 が訊く。
「うん、検死の結果は全身を強く打ったことによる即死だったようだ。ただ……菫 の両親の見立てでは特に争ったような跡も見当たらなかったそうだ。着衣にこれといった乱れは無く、酒は飲んでいたようだが泥酔するほどの量ではなかったと。転落した男娼も当時御職を張っていた売れっ子だったからな。飲酒は宴席に出た際に口にした程度だろうって先生方が……」
「ふむ、着衣に乱れは無く飲酒も軽程度か。書き置き――つまり遺書のような物も無かったわけだな?」
「ああ。そういったものは見つかってねえな。部屋の中も調べたが、取り立てて普段と変わったことはなく、身の回りを整理したような跡も見当たらなかった」
となれば、投身自殺という線は考え難いだろうか。
「その城壁に登る階段だが、ここの地下街じゃ珍しくもねえ代物だ。主には点検用の物だが――お前さんらの遊郭街で普段誰かが気晴らしに登るようなことは?」
「おそらく無えだろうな。登ったところで遠くの景色が見えるわけじゃねえし」
ただ、城壁に穴が開けられていたのは事実で、もしかしたら隣の住居区を覗く目的で開けられたということも考えられなくはないと紫月 は言った。
「住居区を覗く目的か――。その転落した男娼はどのような性質だったか覚えているか?」
例えばコソコソと他人を覗き見る必要があるような男だったのかということだろうか。焔 の問いに紫月 は首を横に振った。
「いや――俺の知る限りそんな陰湿なヤツじゃなかったな。性質は穏やかで、妓楼の中じゃ客からの人気もあって売れっ子と言えたが、それを鼻に掛けることもなくてさ。男娼仲間にも親切で、一歩控えめっていう印象だったな。あのままいけば遅かれ早かれこの男遊廓の花形になれただろうと期待されてもいたな」
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