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「だとすれば私憤によって殺意を抱かれる可能性は低かったということか――」
だが、そんな完璧な人柄だからこそ理不尽な逆恨みを買った可能性もゼロではない。焔 と紫月 が考え込む傍らで、ふと思い立ったように遼二 がつぶやいた。
「なあ、紫月 ――亡くなった男娼二人はどちらも御職だったということだろ?」
「ん? ああ、そういやそうだな……」
「三年前に薬物を盛られたと思われる花香 が第一の被害者だ。二年前に転落したのも同じ御職男娼――。妙だとは思わんか? 偶然という線も無きにしも非ずだが、どちらも御職男娼だというのが気に掛かってな」
遼二 の言葉に、紫月 もハタと瞳を見開いた。
「そういや……二人とも瑞雲楼の男娼だ!」
紫月 のそのひと言で焔 と遼二 も互いを見やった。
「きな臭え話だな。もしかしたら二つの案件は何か繋がりがあるんじゃねえのか?」
「――ふむ、カネの言うことも一理ある。案外同じ下手人によるものかも知れんな」
御職が二人、続けて亡くなっている上に同じ妓楼の男娼ときている。
「そして今また幽霊騒動が起こったということは――」
「まさか……また″瑞雲楼″の御職が狙われているとか?」
三人は焦った表情で互いを見つめ合った。と同時に瑞雲楼では他の妓楼と変わった点があるのかということを紫月 に問う。
「特に変わった点があるとは思えねえな……。大店 だし、上がりも申し分ねえしな。男娼同士で嫌がらせのようなことが起こってるって話も聞かねえ」
「ふむ――。とすれば客とのトラブルと考えるのが妥当か」
店の上がり――つまりは売り上げのことだが、特に問題がなく稼げているというならやはり個人的な恨みなどによるものなのか。とにかくも過去二件の案件から察するに、次に狙われる可能性が高いのは瑞雲楼で御職を張っている男娼ということになるだろうか。
「紫月 、今の瑞雲楼の御職は誰だ」
「――昊凌 という男だ」
「ふむ、もしかしたら次に狙われるのはその昊凌 って男娼かも知れんぞ」
念の為、警備を強化するなりして幽霊騒動についても詳しく調べる必要がありそうだ。
「目的が御職男娼の命ならば、言わずもがな幽霊騒動は隠れ蓑だろう。妖 のせいにして殺害を決行するつもりなのかも知れん」
三人は早速昊凌 を訪ねて、ここ最近で奇妙なことや普段とは違う異変が起こっていないか訊くことにした。
「それと合わせて幽霊騒動ってのを実際に見た男娼らにも話を聞いてみよう。もしも昊凌 という男娼が幽霊を見たとなれば、狙われる確率は非常に高いと言える」
「ん、そうだな。そんじゃ俺は菫 と一緒に昊凌 に会って話を聞いてみる。皇帝様と遼 は幽霊騒動の方を当たってくれるか? 見回り中、実際に俺らの前に幽霊が現れてくれれば実態が掴めるだろうし」
「分かった。お前さん方も注意して行け」
紫月 は菫 を伴って瑞雲楼へ、焔 と遼二 は側近や組員たちと手分けして幽霊騒動の調査に当たることとなった。
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