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197 捜査と警護
男遊郭街、瑞雲楼――。
御職男娼の昊凌 を訪ねると、彼は男遊郭を仕切る紫月 の来訪に感激の面持ちで迎えてくれたものの、身の回りの異変については特に感じたことがないということだった。当然か、幽霊に遭遇した覚えもないと言う。
「近頃の幽霊騒動については私どもも話にだけは聞いておりますが、この瑞雲楼で実際に幽霊と遭遇した者はおりません。お客様とのトラブルを抱えているという話も特には聞いておりませんが……」
「――そうか。何もないに越したことはねえが、過去二件でこの妓楼の御職男娼が亡くなったのは事実だ。念の為、しばらくの間は警備を強化しようと思っている」
紫月 は鐘崎 組の組員たちを常駐させるから、様子を見させて欲しいと言った。
「紫月兄 様のお心遣いに感謝いたします。それで――鐘崎 様の組からはどなたがいらしてくださるのでしょう」
「うん。脅すわけじゃねえが、現段階で一番狙われていると思えるのがお前さんだ。なにせ過去二件の被害者はこの妓楼の御職だったからな。警備は主に組若頭に任せようかと思ってる」
「若頭というと――鐘崎 組の若 様ですか? そのようなお偉い方にご足労を願うのも申し訳なく存じますが……」
昊凌 は恐縮している様子だ。
「ん。もちろん警備は交代で行うから若頭だけが担当するわけじゃねえが、遼二 にはなるべくお前さんの側に付いてもらえるように計らうつもりだ」
「――左様でございますか。では恐縮ながらお言葉に甘えさせていただきます」
「俺ももちろんしょっちゅう見回りに顔を出すようにする」
それを聞いて昊凌 はひどく嬉しそうに頬を紅潮させた。
「紫月兄 様がいらしてくださるのでしたらたいへん心強うございます! ご足労をお掛けいたしますがどうぞよろしくお願いいたします」
昊凌 は丁重に頭を下げてみせた。
「それより兄 様。暖簾が上がるまでにはまだ時間がございます。せっかくお運びくださったのですから、せめてお茶菓子でも上がっていってくださいまし! 兄 様は甘い物がお好きでいらっしゃいますし」
昊凌 は下男に言って茶菓子を用意させようとしたが、
「いや。まだ他の妓楼にも回らなきゃならねえんでな。気持ちだけ貰っとくぜ!」
にこやかに紫月 は言って席を立った。
「左様ですか……。残念ではございますが、紫月兄 様もどうかお疲れが出ませんよう」
「ああ、さんきゅな! お前さん方にもしばらく苦労を掛けるが、充分に警戒して過ごしてくれ。何かあれば夜中でも構わねえ、遠慮せずに知らせてくれ!」
すっ飛んで駆け付けるからと言う紫月 に、昊凌 はたいそう有り難がって首を垂れたのだった。
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