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 一方、(イェン)遼二(りょうじ)の方でも実際に幽霊を見たという男娼たちから話を聞くことができたところだった。一通り各妓楼を回り終えた紫月(ズィユエ)が椿楼へ戻ると同時に(イェン)らも戻って来た。  三人は(ジン)の用意した茶菓子をを囲みながら、それぞれの経過を報告し合うことにした。 「で、どうだった? 俺ン方は一応各妓楼に注意を促すよう伝えて来たが、どこの店でもこれといって厄介事は抱えていねえ様子だった。瑞雲楼の御職・昊凌(ハオリン)にも会って来たが、今のところヤツも実際に幽霊には遭遇していねえそうだ」 「そうか。ご苦労だったな。俺たちの方も幽霊を見たという男娼数人から話が聞けたんだが――正直なところ確たる実体は分からず仕舞いだ」  噂通り、白っぽい(もや)のような物がどこからともなく漂ってきたと思ったら、その中にぼうっと人影のような物が見えたという程度で、それが実際に生きている人間かどうかは分からなかったという証言ばかりだった。 「皆、気味悪い思いが先立ってか、(もや)の中の人影を確かめることなく一目散にその場を逃げたという者ばかりでな。中には腰を抜かして気を失った者もいたんだが、気がついた時には(もや)も人影も消えていたと」 「そっか――。やっぱ俺らが実際に幽霊を目撃しねえことには始まらねえな」  とにかくは、今夜から各所で警備に当たってみるしかないということになった。 「(りょう)には今のところ一等危険性が高いと思われる瑞雲楼へ出向いてもらえるか? 俺と(ジン)は親父と共に各妓楼を巡回して警備に当たろうと思う」  現時点で狙われる確率が高いのは瑞雲楼・御職男娼の昊凌(ハオリン)だ。 「承知した。では組幹部の清水(しみず)と――それから身の軽い小川駈飛(おがわ かけい)を伴うとしよう」  清水(しみず)には妓楼全体に目を光らせてもらい、駈飛(かけい)は俊敏な追跡などにも役に立つ。遼二(りょうじ)自身が昊凌(ハオリン)の側に張り付いて警護をすればまず安心と言えるだろう。 「すまねえな、(りょう)。世話を掛ける」  (イェン)の方からは側近たち数人を出してくれるそうだ。瑞雲楼を起点に、各妓楼の裏路地や脇道まで抜かりなく街中の見回りをしてくれるという。 「運良く幽霊に出くわせればいいのだがな。(もや)(かすみ)のようなものってのはおそらく煙幕のような代物だろうと思われる。人影を見掛けたらその場で確保だ」  (イェン)遼二(りょうじ)に妖の類は通用しない。怖いという感情がなければ実体など誰かの悪戯か、つまりは生きている人間の悪意によるものと分かっているからだ。 「念の為、(イェン)の邸の警備にも気を抜かんようにせねばな。我々が皇帝邸を留守にすれば、万が一にも(ひょう)真田(さなだ)氏が狙われんとも言い切れない」  裏の裏まで読む遼二(りょうじ)はさすがといったところか。確かに一見皇帝邸とは何ら関係のない遊郭街で事が起こると見せ掛けて、本当の目的は皇帝邸そのものということも有り得る話だ。警備で手薄になったところを襲撃されないとは言い切れないからだ。 「すまぬな、カネ。気遣いに感謝するぞ」  (イェン)(イェン)で、抜かりのない友に謝意を示すのだった。 ◇    ◇    ◇

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